花とゆめ連載「スキップ・ビート!」の感想&二次SS中心です。当サイトはリンクフリーです。
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「マッチ売りの少女(後編)」
2015年06月10日 (水) | 編集 |
「マッチ売りの少女(後編)」





「あ、あなたは……!」

「その服で少しは売れたかね?」

そう言ってニヤリと笑ったのは、朝最初に出会い、ピンクのつなぎをくれた、親切で奇抜な格好をした紳士でした。

「あ、はい……お陰様でとても目立ちました」

嘘のつけない少女は、売れたとは言えず言葉を濁して答えました。しかし紳士は少女が口にしなかった言葉なんてお見通しだったのです。

「ふむ……やはり目立っただけで売れはしなかったか。残念だ」

そう言いつつも紳士はあまり気にしていないようでした。むしろ少女の方が申し訳なくていたたまれなくなってしまいます。

「す、すみません。せっかく親切にしていただいたのに……」

「いやいや、お前さんが気にやむことはない。マッチの良さのわからん連中が悪いのだ!マッチはこんなにも素晴らしいというのに!皆何故それがわからんのだ!嘆かわしい!!」

「…………は?」

「見てみよ、棒の先にあるささやかな球体のこの美しいフォルム!擦りあげる時の絶妙の感触と何とも言えない音!まるで春を思わせるような温かで優しい光!どれをとっても素晴らしい!!」

マッチへの愛を興奮ぎみに語り出した紳士に、少女は呆気にとられ、社は頭を抱えます。

「これが始まると長いんだ」

口を開けながらポカンと紳士を見ていた少女に、社は苦笑しながら耳打ちしました。

「とりあえず座って。お茶を用意してくるよ」

そう言って社は部屋を出ていってしまいました。

残された少女は不安でたまりません。たいそう豪奢な宮殿の、たいそう大きな部屋に、たいそう変な紳士と二人きり。

一体自分は何のために呼ばれたのか。何をしたらいいのか。

少女は訳がわからないまま、マッチの素晴らしさを延々と語る紳士を眺めていました。

そこへ社がお茶を持って帰ってきました。

「お待たせ、今の間に飲んで」

「いただきます」

とりあえず落ち着こうと、少女は出されたお茶をありがたくいただくことにしました。金色に輝くカップには美しい装飾が施されています。少女はその美しさに思わずうっとりと見惚れてしまいました。

「これ……金食器ですか?」

「そうだよ。見たことあるの?」

「昔に……。でもこんな見事な装飾されているの、見たことありません。細部までとても綺麗…………あれ?でも昔見たのとはちょっと金の感じが違うような……」

少女が不思議そうに食器を眺めていると、背後から声がかかります。

「さすがに目がいいね。それは装飾重視の24金製の金食器。君が昔見たのは純金製。違ってて当然だけど、普通は気付かないよ」

驚いて振り向けば、そこにはあの意地悪な紳士が立っていました。

「あ、あなたは……!」

「よお、蓮!一足遅かったな。彼女のマッチは俺が全部買い上げたぞ」

現れた意地悪な紳士に、奇抜な紳士がニヤリと笑いながら声をかけます。それを見て嫌そうな顔をしながらも、蓮と呼ばれた紳士は、朝とは打って変わって優しく少女に声をかけました。

「朝はごめんね。相変わらず君があいつのために一生懸命だったから。だからちょっと意地悪したくなっちゃったんだ。久しぶりだね、キョーコちゃん」

「…………誰?」

「君に昔純金製の金食器を見せてあげたよね?君は目をキラキラさせてそれを見てた」

「まさか…………コーン……?」

「そうだよ。また逢えて嬉しいよ、キョーコちゃん」

そう言って蓮は、キラキラとした光を振り撒きながら満面の笑みを浮かべました。

その笑顔には覚えがあります。少女が幼い頃出会った妖精と勘違いした少年のモノです。髪や瞳の色は違いましたがこの光と優しい笑顔。間違いありません。少女は忘れられない笑顔を見て瞳を潤ませると、とうとう泣き出してしまいました。

「キョ、キョーコちゃん……!?どうしたの!?どうして泣くの?」

慌てて蓮、もとい、コーンは少女を抱き締めます。コーンにとって少女は大切な初恋の女の子で、絶対に泣かせたくない相手なのです。

「コ、コーンが生きててよかった~」

そう言ってわんわんと子供のように泣く少女を、コーンは更に強く抱き締めました。愛しくて堪らない初恋の少女。自分を見失うくらい苦しく辛い時でも忘れられなかった少女。

今朝再会した時には、相変わらず恋敵であるショーのために少女が一生懸命なのに腹が立ち、つい意地悪なことを言ってしまいました。けれど泣くほど再会を喜んでくれるなら、嫌われてはいないようです。むしろ好いてくれている。そう思ったコーンは、涙でぐしゃぐしゃになっている少女の目尻に口付けをしました。

「……っ!!コ、コーン?」

思わぬキスに、少女はびっくりして泣き止みました。

「あ、泣き止んでくれたね。よかった。俺もうキョーコちゃんが泣いてるとこ見たくないんだ」

そう言って笑うコーンに、少女は真っ赤になりながらも笑顔を浮かべました。

「コーンったら……」

恥ずかしそうにしながらもコーンの腕から離れようとしない少女を、コーンはこれ以上ないくらい甘い表情で見つめています。

「キョーコちゃん、こんな俺でも逢えてよかった?」

「もちろんよ!逢えて嬉しいわ、コーン!!」

満面の笑みで抱き着く少女をしかと抱き止め、コーンは幸せそうに微笑みました。

「しばらく二人きりにしてやるか」

「そ、そうですね……」

二人を見守っていた大人達は、そっと部屋から出ていきました。

「しかし蓮があんな顔をするなんて……俺今まで見たことないですよ。それにコーンってなんですかね?あだ名なんでしょうか?」

「……さあな。しかしありゃあ初恋だな。蓮のやつ……メロメロじゃねえか」

「……ですね。見てて俺も恥ずかしくなってきました」

「俺もだ。さすがに砂吐き出しちまうかと思ったぞ」

「王様まで……これは事件ですね」

「あいつに報告しねえとな」

奇抜な紳士、もとい王様と社は、嬉しそうにそんな話をしつつ、廊下を歩いて行きました。

そして残された二人はというと……。

「ねえ、コーン?どうしてこの国にいるの?遠い国に帰ったんじゃなかったの?それにどうして瞳や髪の色が違うの?変身してるの?」

矢継ぎ早に尋ねる少女に、コーンはにこにこと笑顔で答えます。

「違うよ。でも、それを話したらキョーコちゃんを放してあげられなくなっちゃうけど……いいの?」

「うん。話して。昔私の話をたくさん聞いてもらったから。だから今度は私がコーンのお話を聞いてあげたいの」

「キョーコちゃん……」

コーンは感極まったように少女を見つめ、そして強く抱き締めました。

「コーン……痛い」

「ごめん」

そう言って微笑み、コーンは少女の唇に触れるだけのキスをしました。

「コ、コココ、コーンっ!?」

「話す前に言っておくね。好きだよ、キョーコちゃん。大好き」

眩い光を纏い、神々しい笑顔でそう言われ、少女は顔を真っ赤に染めました。そんな顔も可愛いな、とコーンは思い、再びキスをします。今度は少し長めに。もちろん軽いものでしたが、少女が空気を求めて喘ぐまで、コーンはずっとキスをし続けました。

「コ、コーン!も…もういいでしょ?お話聞かせて?」

中々キスを止めないコーンに、少女は抗議しました。キスされるのが嫌なのではありません。ただ恥ずかしかっただけなのです。

仕方ないなあとコーンは言いつつ、腕に少女を抱いたまま話始めました。長い長い話を。

そしてコーンは話終えた後、最後に付け加えました。

「俺の本当の名前はクオン。これからはクオンって呼んで。愛してるよ、キョーコちゃん」




これは一人の少女のお話です。

少女はしがないマッチ売りから、なんと異国の王子の妃になったのです。王子様の名前はクオン。少女はクオンの初恋の人でした。

二人は小さい頃に少しだけ、少女がいたこの国で遊んだことがあったのです。それからクオンには辛いこと、悲しいこと、苦しいことが次々起こります。やがて自暴自棄になったクオンは、姿を変えこの国にやって来ました。そこでマッチを売る少女に再会したのです。変わらない少女にクオンは癒され、自分を取り戻しました。

そしてクオンは愛しい少女を連れ自分の国に帰り、すぐに二人は結婚したのです。

少女、キョーコはクオンの傍らで、いつまでもいつまでも幸せに暮らしました、とさ。



おしまい。





<後書き>
どこがマッチ売りやねん!というツッコミはなしにしてね。メモ書きのプロットではこんなはずじゃなかったんですが……あはは。それにしても童話の文体は書きにくいです。
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「マッチ売りの少女(前編)」
2015年06月10日 (水) | 編集 |
「マッチ売りの少女(前編)」





一度目に入れば、思わず振り返りたくなるド派手なピンク色のつなぎをきた少女が、寒空の下一人マッチを売っていました。朝から降り続いている雪で少女の足は雪で埋もれ、肩や頭にもかなり降り積もっていましたが、もはや少女にそれを払う気力は残っていません。

「寒いなあ~。でもこれが売り切れるまでショーちゃん帰ってくるなって言ってたし……頑張らなきゃ」

自分にそう言い聞かせて、少女は再び通りがかる人々に声をかけました。

しかしマッチは中々売れません。籠にはまだまだマッチがたくさん残っています。

朝最初に声をかけてくれた奇抜な格好をした親切な紳士が、このつなぎをくれてから、目立ちはするもののマッチを買おうとする人は中々いませんでした。今日は特に朝から酷い雪のため、外出する人も少なく、馬車は通るものの歩く人は家路を急ぐ人ばかりなのです。

「今日はこんな雪じゃ売れないんだから、あんたも早く帰りなさいよ」

いつも同じ通りで花売りをしている少女も、今日はすでに売るのを諦め、そう言って帰ってしまいました。あの少女がいればまだ寂しくなかったのに。少女はそう思いながら悴んだ指を息で温めました。それでもちっとも温まりません。

「寒いなあ。この寒さはやっぱり根性ではなんとかならないわ」

そう呟いて少女はクスリと笑いました。朝出会った意地悪な紳士のことを思い出したからです。

奇抜な紳士から貰ったピンクのつなぎに着替えて間もなく、少女の目の前を豪奢な馬車が通り過ぎました。装飾の美しさに思わず目を奪われ、行く先をじっと見ていたら、なんとその馬車が少女の目の前に戻ってきたのです。

少女が驚いて見ていると、馬車から一人の紳士が降りてきました。その紳士はとても背が高く、整った顔立ちで、少女は少し見惚れてしまいました。

「やあ、お嬢さん。それは何を売っているの?」

そんな少女に紳士がにこやかに尋ねました。

「……マ、マッチです。ショー印の特製品です」

一瞬ぼうっとしてしまった少女が慌てて答えると、紳士は呆れたような顔をしました。

「マッチ?今時?」

そのバカにしたような言い草に、少女はカチンときて思わず言い返してしまいました。

「悪いですか?これでも結構役に立つんですよ。あなたみたいなお金持ちにはわからないでしょうけど」

「ああわからないな。けど一つだけわかることがある」

「何ですか?」

「そんなマッチを買う愚かな人はいないってこと」

あまりの言われように少女はますます憤慨し、紳士を睨み付け言い放ちました。

「そんなことないわ!ショーちゃんがあんなに頑張って作ってくれてるんだもの。そりゃあ確かに前より売上は落ちたけど、でもいつも根性で売り切ってるもの!ショー印のマッチをバカにしないで!!」

「根性だけでいつまでも乗りきれると思うなよ」

冷たい瞳で見下され、少女はびくりと震えました。しかし勇気を持って睨み返すと、紳士は表情をころりと変え、にこりと笑って馬車へと踵を返します。

「いつまで持つかな。じゃ、精々頑張るんだね」

ヒラヒラと肩越しに手を振って、紳士は馬車に戻り行ってしまいました。

「なんだったのかしら、あれ……。それにしてもムカつく!!絶対売り切ってやるんだから!!」

――――――と決意したものの、やっぱりマッチはほとんど売れず、今に至るのです。

「やっぱりあの人の言う通りだったかなあ~。でもほんとに今までは根性で売り切っっていたんだもの。それにしてもあの人も子供の私に言い返したりして、大人なのに子供っぽいなあ。しかもあんなにかっこいいのに……あ、かっこいいは関係ないか」

誰に聞かせるでもなく呟いて、籠にかけていたストールから雪を払います。雪でマッチを湿らせないように。しかしその配慮も売れなければ意味がありません。

「今日はもう諦めようかなあ。ショーちゃんにはプリンでも買って許してもらうとして」

幸い奇抜な紳士のおかげで売上が少しはありました。プリンを買ってもお金は充分残ります。

あとちょっとだけ頑張って無理ならそうしよう。

少女はそう決意して、再び通りがかった人に声をかけました。



しばらくして、少女の前を一人の青年が通り過ぎました。青年は、ピンクのつなぎに驚いて振り返り立ち止まると、少女をじっと見つめます。居心地悪くなって少女が目を反らすと、青年は徐に近付いていきました。そして少女の前に立ち、少女に視線を合わせます。仕立てのよいコートを気崩しつつも、品よく着こなしているその青年は、マジマジと少女を覗きこんで言いました。

「君、よく見ると可愛いね。マッチを売っているの?」

「あ、はい……」

「ふーん。なら買うからさ、今から一緒に俺の家に来てくれないかな?」

行ってどうするのか。少女にはよくわかりませんでしたが、買ってくれるならそれに越したことはありません。

「はい、喜んで」

にこりと笑って少女が答えると、青年は人好きのする笑みを浮かべ、少女の肩を抱いて言いました。

「じゃあ決まり。俺は貴島ね。よろしく。あ、俺の家に来る前に、その派手な服も着替えて貰うから。服代は俺が出すから遠慮しなくていいよ」

貴島と名乗った青年の言葉に不審を抱きつつも、少女は大人しくついていこうとします。そこへ慌てた様子でもう一人、眼鏡をかけた青年がやってきました。

「ちょっと待って!!マッチを俺にも下さい」

息を乱しながらも少女の手を取り、青年はそう言うと、財布を懐から出します。見るからに高そうで上品なそれには、特徴的な紋章が施されていました。その紋章を見て貴島は驚きます。

「あ、あなた……もしかして………」

「ありがとうございます。あの…でも……貴島様の……」

「お、俺ちょっと用事を思い出したからさ、帰るね」

そう言って貴島はそそくさと帰っていきました。

「行っちゃった……。まだ買ってもらってないのに」

「ごめんね、商売の邪魔しちゃって。お詫びにそのマッチ、残り全部下さい」

「へっ…………?」

少女が驚くのも無理はありません。籠の中にはまだまだたくさんのマッチがあるのです。これを全部だなんて少女には信じられませんでした。

「あ、もしかして全部は駄目?」

ブンブンと首を横に振ると、眼鏡の青年は安心したように笑ってよかったと言いました。

「でね……申し訳ないけど、俺マッチあんまり使ったことないんだ。だから家まで来て使うとこ見せて欲しいんだけど……いいかな?」

「はい。もちろんです。喜んで」

少女は満面の笑みで答えました。何しろ少女はマッチのプロです。使って見せるなんてお手のもの。それに何よりマッチを全部買ってくれるなんて、とてもいい人なのです。少女はウキウキしながら眼鏡の青年の後に従いました。

眼鏡の青年は、少女を橋の向こうに停めていた馬車まで案内してくれました。その馬車には見覚えがあります。豪奢な装飾が施されたそれは、間違いなく朝のあの意地悪な紳士が乗っていた馬車と同じでした。

「あの…この馬車……」

少女が乗るのを躊躇っていると、眼鏡の青年が少し強引に中へ引き込みました。

「あの……」

「大丈夫。悪いようにはしないから」

不安そうにする少女に、青年は安心させるように笑いかけます。それでも少女の心は晴れません。

言い知れぬ予感に、少女は体を震わせました。なんとなくですが、自分の人生が変わってしまう。そんな気がしたのです。

そんな少女の当惑をよそに、しばらくすると、走っていた馬車が停まりました。目の前には豪奢で大きな門があります。その門の前には衛兵らしき人物が数人立っていました。彼らは恭しく一礼し、門を開けます。そうしてゆっくりと、馬車は門の中へ入っていきました。

門を通ってから何気なく窓の外を見ていると、よく手入れされた庭が見えました。色とりどりに咲く花、美しく揃えられた木々、凝ったデザインの噴水。見たこともない美しい庭に少女は目を輝かせます。そうしてキラキラとそれらに目を奪われていると、あっという間に目的地に到着してしまいました。

「着いたよ。俺の主が住む屋敷へようこそ」

「あの……ここは…………」

少女は目を疑いました。目の前にはあるのは屋敷というより宮殿といった方が相応しい、豪華できらびやかな建物でした。

「お帰りなさいませ、社様」

「ただいま。あの方は?」

「お部屋にいらっしゃいます」

「ありがとう」

馬車を降りると、両端に並ぶメイド達に恭しく迎えられ、少女は慌てつつも社と呼ばれた青年の後をついていきました。その背中に隠れるように。

建物の中も外から見たイメージに違わず、きらびやかな装飾品で埋め尽くされていました。まさに豪華絢爛、どこぞの王宮か、といった雰囲気に、少女は自分の身の置き場に困ってしまいました。こんな所で一体何をさせられるのか、何をされるのか、不安で堪りません。

「今すぐ帰りたいって顔してるよ」

「だって……まさかこんな立派な宮殿だなんて……」

「あはは……ここは別邸。そんなにたいそうなもんじゃないよ」

社はそう言いますが、庶民である少女にしてみれば充分たいそうなものでした。

おっかなびっくり歩く少女を連れ、一際豪華な装飾の施された扉の前に来ると、青年はそこで止まりその扉を叩きました。

「社です。戻りました」

「帰ったか。入れ」

中からした声に従い、社は中へ入って行きました。

「連れて来たか?」

「はい……あれ?入ってきて?」

少女は扉の前に立ち止まったままでした。社が声をかけても一向に入ってくる様子はありません。

「どうしたの?」

「だって怖くて……」

少女は朝出会った意地悪な紳士が中にいるのだと思っていました。そしてまた意地悪を言われるんじゃないか。そんな想像をして怯えていたのです。

「大丈夫だよ。とって食ったりしないから」

社に言われ恐る恐る中に入ると、そこには少女が思っていた紳士はいませんでした。

中にいたのは確かに紳士は紳士でしたが……。

◎「桃頭巾ちゃん」
2015年06月02日 (火) | 編集 |
「桃頭巾ちゃん」





それはとある国のとある少女の話です。

少女の名前はキョーコ。けれど彼女の変わった特徴から、人々からはこう呼ばれていました。『桃頭巾ちゃん』と――。

今日もキョーコはお気に入りの桃色の頭巾を被り、小さなバスケットを持ってある人物の所へ向かっていました。

ちょうど森の入口まで辿り着いた時、キョーコはフードを被った男に声をかけられます。

「やあ、お嬢さん。どこへ行くの?」

「森よ。知り合いに差し入れに行くの」

不審に思いながらもキョーコは素直に答えました。男は口許に笑みを浮かべ、キョーコに近付いてきます。

「そのバスケットの中身は何?」

「これは……な、なんでもいいでしょう。あなたには関係ないわ」

「そう……。そうだ。この近くに綺麗な花畑があるんだ。その人の家に行くならそこへ寄って花を摘んで行くといい」

「花?そんなものいらな……いえ…そうね、寄って行くわ」

キョーコは思い直し、男の言う通り花畑に立ち寄ることにしました。




キョーコが花畑に行くのを見送った後、男は急いで森の奥へと向かいました。彼女より先に会わないといけない。そう思って男は人が通らない獣道を人間とは思えないスピードで駆け抜け、あっという間に森の奥の小さな小屋に辿り着きました。

小屋の中からは静かな森とは不釣り合いな派手な音楽が流れています。男は一応そっと近付くと、窓から部屋の中の様子を窺いました。

どうやら目的の人物は在宅しているようです。しかもベットに横になっているようでこちらの様子には全く気付いていません。

しめしめ……。男はそう思いながらこっそり玄関に近付いていきました。そしてゆっくり扉を開けそっと中に忍び込みました。

中の人物はふわりと風を感じ、ふいに扉を見ました。鍵はかけていませんでしたが、閉まっていたはずの扉が開いています。不審に思い体を起こすと、そこに見知らぬフードの男が立っているのが目に入り、驚いて立ち上がりました。

「なっ!?てめえ、誰だ!」

「君に名乗る名前なんてないよ」

「はあ?…っていうか、勝手に入って来るんじゃねーよ!」

茶髪の男、ショーがそう叫びましが、フードの男はそれを無視し、ショーにどんどん近付いていきます。男の醸し出す得体の知れない雰囲気にショーは怯え、一歩、また一歩と後退していきました。

「な、なんだよ!?」

「君はもうすぐあの娘に殺される。でもそんなことはさせない」

男は怯えるショーに囁きました。

「なっ!?」

そして、ショーが怯んだ隙に自分の羽織っていたフードを脱ぎ捨て、彼を覆いました。フードから現れたのは美しい黒髪の男でした。そしてその頭にはもふもふと柔らかそうな毛の、黒くて大きい耳が生えています。

そう…彼はオオカミだったのです!しかしフードで覆い隠されているショーには見えません。人間の中では中々強いと自負しているショーは猛然と暴れますが、オオカミに勝てるはずもありません。圧倒的な力の前にショーは足掻き、叫んぶことしかできませんでした。

「て、てめー!何しやがる!オレにこんなことして、ただで済むと思ってんじゃねえーだろうなあ!!」

フードの中でじたばたともがくショーをオオカミは凄まじい力で押さえ付け、息切れしたところで急所に拳を叩き付けました。

昏倒したショーをオオカミは軽々と持ち上げ裏手の草むらに放り投げます。バキっと骨の折れる音が聞こえましたが、オオカミは気にせず扉を閉めました。

「彼女の手を汚させる訳にはいかないんでね」

ふっと不敵に微笑んで、オオカミはベットに寝転がりました。そして頭からブランケットを被ります。

もうすぐあの娘がやってきます。

オオカミは高鳴る鼓動を抑えられません。




程なくして、キョーコが小屋へとやってきました。少女はコンコンと小さくノックをして中に声をかけます。

「いるんでしょう?開けて。キョーコよ」

「開いてるよ」

「……?」

聞こえてきた声に違和感を覚えながらもキョーコは中へと入っていきました。

「具合悪いって珍しいわね」

キョーコはベットに向かって歩いていきます。

「あんたの好きなプリン、作ってきてあげたわよ」

「そう……。嬉しいな。こっちに持ってきてくれる?」

またもや聞こえてきたのはショーとは明らかに違う、穏やかで優しい声。しかも普段の彼とは言葉遣いがまるで違っています。こんなに丁寧な扱い今まで受けたことがありません。

よっぽど弱っているのかしら?

風邪ひくと声も変わるらしいし。

キョーコはそう思いベットの傍らに腰を下ろし、頭までかけてあるブランケットを少しだけ捲りました。

そこにいたのはキョーコのよく知る幼馴染みではありません。彼とは似ても似つかない、黒髪の美しい男。しかも頭にはふさふさの耳が生えています。

「なっ!?あ…、あなた誰?ショー……、あいつは?」

「彼ならいない。俺が食べたからね」

「は?何言ってるの?」

「君、知らないの?俺はレン。一応この辺じゃ名の知れたオオカミなんだけど……」

確かに男の頭に生えているのは、オオカミの耳です。キョーコはもう一度彼の耳を見ました。そして……。

「オ、オオカミ―っ!!」

悲鳴をあげたキョーコの口を、レンは慌てて塞ぎました。そしてベッドに引き込み自分の腕の中に閉じ込めてしまいます。

「そんなに驚かないで。別に俺は君を捕って食べたりなんかしないから」

フルフルと身体を震わせ自分を見上げるキョーコを、レンは優しく諭します。彼女がコクンと頷いたのでレンは手を離しました。

そのまましばらくキョーコはレンに大人しく抱き締められていました。どうしてかこの中にいると優しい穏やかな気持ちになれるのです。

安らかな気持ちにうとうとしてきたとき、キョーコは聞きました。

「私をどうしたいの?」

「もちろん食べる」

びくりと震えたキョーコに、レンはくすりと笑いました。

「……と言いたいとこだけど、また今度ね。今はお腹いっぱいだし」

「あいつを食べたから?」

「そうだよ。不味かったけどね」

「どうして食べたの?私が……私が殺そうと思ってたのに!」

「だからだ」

「……?」

「君の手があんなやつのために穢れてしまうのが嫌だったんだ。あんなやつ、君が手をかけるまでもない」

「……え?」

「君が俺みたいに穢れてしまわないように……俺はずっと見守っていたんだ。だから今日、君があいつを殺そうとしていたこともわかったし」

「どうして……?私…あなたのことなんて知らない……なのになんで……」

「今は言えない。でもいつか……いつか、きっと言うから……」

だからそれまで俺のこと待ってて。

レンはそう言ってキョーコの額に優しく口付けし、小屋を出て行きました。

一人残されたキョーコはただ呆然とベッドに座り込み、レンの触れた額に手をあてていました。まるで少しでもその温もりが消えないように。




それからしばらくして、オオカミの噂を聞き付けた狩人がやってきました。

「キョーコ!大丈夫なの!!」

狩人、奏江は勢いよく小屋の扉を開け放つと、まるで突進するかのようにキョーコに近寄ってきました。

「オオカミが出たって聞いたけど、大丈夫なの?」

「モ、モー子さん……」

「何もされてない?」

キョーコが答える前に、奏江はキョーコの体をあちこち調べます。普段は素っ気ない態度をとっていますが、奏江にとってキョーコは大事な親友です。

だからオオカミが出たと聞いて慌ててやってきたのです。

一通りキョーコの体を調べたあと、何もないのを確認すると、奏江は安心したようにキョーコの隣に座り込みました。

「で?オオカミには会わなかったの?」

「会ったわ」

「会った?……あんたよく無事だったわね。凶悪なやつなのに」

「でもいいオオカミだったわよ?」

「オオカミにいいも悪いもないの!」

「でもあいつ殺さなくて済んだし……」

「え……?そういやあいつは……?」

「なんか私が殺す前に食べたんだって」

「オオカミが?」

「うん。せっかく手向けの花まで摘んだのに……」

「そう……とにかく帰るわよ。もう暗くなるし。オオカミじゃなくても森にはヤバイやつ、たくさんいるしね」

奏江はそう言ってキョーコを立たせると、彼女を引き摺るように小屋を後にしました。

そんな二人の後ろ姿をレンは見守り続けます。

「キョーコちゃん、またね。次に会ったら今度はほんとに食べるからね。覚悟してて……」

そう妖しく呟くと、裏で伸びていたショーを担ぎ上げ、森の奥へと姿を消してしまいました。




その後、ショーが更正施設で心を入れ換え、遠い異国の地で歌手としてデビューしたのを、キョーコは知ることができませんでした。

なぜならそれどころではなかったからです。

「今度は食べるって言ったよね?」

キラキラと無駄に神々しいオーラを放つ男に、キョーコは思わず逃げそうになりました。しかしそうは問屋が卸しません。男はガシッとキョーコを掴み、逃がさないようにがっちりと腕の中に抱き締めます。

「逃がさないよ。じっくりゆっくり食べさせてもらうから」

「ひっ……!」

男はなおも逃げようともがくキョーコを軽々と持ち上げ、ベッドに運びました。

「もちろんベッドの上で優しくね」

「ひーえーっ!!!」

神々しい笑顔で男はキョーコに手を伸ばします。

キョーコはベッドの上で真っ青になりながら涙を浮かべ後退りました。

そんな怯えるキョーコとは裏腹に、男は満面の笑みで彼女を裸にしていきます。

青い瞳が彼女を愛しそうに見つめました。その瞳を前にすると、なぜか彼女の体は動けなくなってしまうのです。そしてそんな彼女の体を金色の美しい髪が這い回りました。

男の名はクオン。人を殺めたと思い込み、自らを律するためオオカミになる呪いを受けたレンでした。

そしてようやくその呪いが解けたのです。

彼は呪いが解けたその足でキョーコのもとへ赴きました。そして初恋の相手であるキョーコに求婚を迫り、親代わりの酒場の夫婦を説き伏せて無理矢理結婚してしまいました。

そんな二人の今日は初夜なのです。

まだ昼だと言うのに、キョーコは大きな耳のなくなったクオンに美味しく食べられてしまうのでした。





<後書き>
以前に書いていたものとかーなーり、変わってしまいました。なぜ?無理にコメディに持っていこうとして失敗しました(苦笑)。
白雪蓮を書かないといけないはずなのに、向こうのストーリーより何故か断片的に思い出したこちらを書いてしまいました。おかしいなあ。


◎「シンデレラ」
2015年03月10日 (火) | 編集 |
「シンデレラ」





地味で色気がなくて芸能人としての華がない。

素のキョーコを評する人はこぞってそう言った。けれど一度、女優として役に入り、メイクを施されたのなら、その評価は一変する。

「ほんと、メイクさんって魔法使いみたい。私まるでシンデレラになった気分なのよ」

「はあ?」

鏡の前で興奮ぎみに話すキョーコに、隣の少女は呆れ果てた。

相変わらずメルヘン思考で、恋に関して以外は夢見る乙女そのものだ。

「だからね。モー子さんはそりゃあ普段から美人だけど、私なんてはっきり言って平凡じゃない?でもメイクさんの手にかかれば、あっという間にこんなお姫様みたいにしてくれるんだもの」

「はいはい。よかったわね」

「もー!モー子さんってば真剣に聞いてないでしょう!意地悪!」

キョーコがぷんぷんと怒っていると、二人を担当しているメイクの女性が笑いながら会話に入ってきた。

「そう言ってもらえると嬉しいわ。でも京子ちゃんって、もともと顔が整っているから綺麗に仕上がるのよ」

その言葉に顔を真っ赤にして、キョーコはブンブンと勢いよく首を振る。

「そ、そんなことないです。私ごとき恐れ多い」

「でも京子ちゃんがシンデレラなら王子様は大変ね」

「へ?どうしてですか?」

「だって京子ちゃん、せっかく王子様がガラスの靴を持ってきても、履かずに逃げちゃいそうなんだもの」

「その前に追い返すんじゃないの」

「それは有り得るわね。ふふふ」

二人に言いたい放題言われて、キョーコはむうっとふくれた。

(そもそも私は王子なんかと踊らないわ!誰が王子なんかと……)

綺麗な衣装に身を包み、メイクをバッチリ決め、美しく変身することに憧れても、恋に恋することはない。

もう二度と思い出したくもない過去の過ちが甦り、キョーコは苦虫を噛んだ。




その夜、キョーコはお城の中にいた。

小さい頃、絵本でみたような美しい白亜の城だ。明かりの灯る階段を昇れば、着飾った男女がダンスに興じている。

ふと自分を見ると、宝石をいくつもちりばめた白く輝くドレスを纏っていた。首から胸元にかけては大粒のダイヤをあしらったネックレスがぶら下がっている。

(すごい!私、お姫様みたい!)

興奮してしげしげ自分を観察していると、ふいに廻りが静かになった。

「美しい姫君、一曲踊っていただけませんか?」

キョーコの前に突然現れた長身の男が、優雅に手を差し出しダンスに誘う。

「つ、つ、敦賀さん!」

「敦賀?俺はクオン。ひどいな、他の男と間違えるなんて」

「へ……?クオン?今クオンって言った?」

「そうだよ。自分の国の王子の名前も知らないの?」

君って変わってるね、などと言われ、キョーコはますます訳がわからなくなってしまった。

(王子って言った?しかもクオンですって?でもどう見ても…敦賀さんよね?)

とまどっているキョーコなどお構いなしに、クオンは再び手を差し出す。

「さあ、姫。参りましょう」

恐る恐るその手を取ると、クオンに誘われ、キョーコは広間の中央まで連れて来られてしまう。

すると間もなく優雅なワルツが流れ出し、クオンがステップを踏み出した。それにつられてキョーコもワルツに踊る。ワルツなんて踊ったこともないはずなのだが、キョーコはクオンにリードされ、華麗に舞った。

周りはざわめき、中央の二人に刮目する。

(なんでこんなことになってるの?嫌な感じ~)

キョーコは踊りながら、自分に絡み付く視線に辟易していた。嫉妬という悍ましい感情のこもったそれには嫌と言う程覚えがある。

そんなキョーコに気付くこともなく、クオンは優雅にステップを踏み、キョーコを見て優しげに微笑んだ。

「凄く綺麗だ」

「は?ああ…このドレスことですか」

「違うよ。君のこと」

「へ?」

「本当に綺麗だよ」

「はあ?」

言われ慣れない言葉に、キョーコは思わず間抜けな声を出してしまった。

その声と表情を見て、クオンは笑った。今までにないキョーコの反応が無性に可笑しかったのだ。

「いい反応だね。気に入ったな。君、名前は?」

「な、名乗る程の者でもありません!」

「教えてくれないの?」

キョーコはブンブンと思いっきり首を振る。

「だったら……」

『教えたくなるようにしてあげようか?』

突然引き寄せられ、耳元で囁かれた言葉にキョーコは戦いた。

「ひっ!ひいぃぃ!」

夜の帝王モードで妖しい笑いを浮かべるクオンの手を慌てて振りほどく。

「クスクスクス…そんなに怯えなくてもいいのに」

キョーコのそんな様子に、クオンは楽しそうに笑った。

「か、からかわないで下さい!」

「からかってなんかないよ。それより……本当に名前、教えてくれないの?」

キョーコがこくこく頷くと、クオンはようやく諦めた。

「まあいいよ。それなら勝手に呼ばせてもらうね。そうだなあ……シンデレラなんてどうかな?」

「シンデレラ?まあ、いいですけど……」

「じゃあ、シンデレラ、よく聞いて。俺、今夜のパーティーでお嫁さんを探してるんだよね」

「は、はあ……」

「俺は君が気に入った。だから、俺の……」

クオンの言葉を遮るように鐘の音が鳴る。

「ああ、もうこんな時間か。仕方ない。シンデレラ、君この後俺の部屋に寄ってくれないかな?」

「よ、用事がありますので失礼します!!」

そう言って、キョーコは振り向くことなく一目散に走り去っていった。

クオンがすぐにその後を追い掛けたが、すでにキョーコの姿は見えなかった。ふと下を見ると、キラリと何かが光る。

階段に靴が片方だけ落ちていた。

クオンはその靴を拾い、ニヤリと口角を上げる。

「絶対逃がさないよ」

妖しい微笑みを浮かべた彼を、月だけが見ていた。




王宮から飛び出たキョーコは、あてどもなく走り続けた。途中、靴が片方ないことに気が付いたが、止まれば捕まってしまうかもしれない。そう思って、キョーコは走り続けた。

しばらくそうして走っていたキョーコだったが、喉の渇きを覚えて立ち止まると、ちょうどすぐ傍に噴水が見えた。キョーコはなんとかそけまで行き、喉を潤す。その横にハシバミの木があり、それにもたれて座り込むと、疲れ果てていたキョーコはそのまま眠ってしまった。

気が付くと、キョーコはどこかの床で寝ていた。

(どこ、ここ?まだ夢……?)

ムクリと起き上がるキョーコの目に入ったのは、古い台所のようだった。

とりあえず身体に付いた汚れを掃い、そこから出る。

壁が剥き出しで、電化製品などが見当たらない。なんだか昔の家のようだ。

ぐるりと部屋を見渡していると、背後から声をかけられた。

「キョーコちゃん、おはよう」

「……?おはようございます、ショウコさん」

ここがどこかも、なぜショウコがここにいるのかもわからない。おまけに自分も彼女も質素で地味な服を着ている。昨日のドレスはどこにいったのだろう。

ショウコに聞けば何かわかるかもしれない。

キョーコがそう思ってショウコに近付くと、向こうのソファーに人影が見えた。

その人物は、優雅に足を組んでいる。そして振り向いて、偉そうにキョーコを呼んだ。

「おい!キョーコ、俺様のプリンはちゃんと買って来たんだろうなあ!」

「買う訳ないでしょ、馬鹿ショー!!」

キョーコは不可解な状況にも関わらず、ショータローに対し、いつも通りに反応してしまった。

「なっ!?てめー、キョーコ!」

「キョ、キョーコちゃん?」

普段は従順なキョーコが初めて口答えしたので、一体どうしたのかと、ショータローもショウコも驚いてキョーコを見た。

そこへ、ミモリが二階から降りて来てショータローに纏わり付く。

「おはよう、ショー兄様。ショウコ姉様。どうかしたの?」

「どうもこーもねーよ。キョーコの奴、夕べ俺が頼んだプリンを買ってきてねーんだよ」

「ショー兄様、プリンないの?ならミモリが買ってきてあげる♪」

ミモリはうきうきと楽しそうに言い、ショウコに財布を預かり出て行った。

ミモリを送り出したショウコは、キョーコの顔をじっと見詰める。

「キョーコちゃん?大丈夫?今日おかしいわよ。具合でも悪いの?」

「いえ、別に……」

「そう?ねえ……もしかして昨日、私達が王宮に行っている間に何かあった?」

王宮という言葉に、キョーコはピクリと反応した。そして慌てて首を振る。

「何もないです!」

「なら言いんだけど……」

ショウコはまだ納得がいかないようだったが、それ以上尋ねてくることはなかった。

とてもじゃないがこの状況で「ここはどこですか?」なんて聞けない。

一体どうしたらこの事態を打破できるのか。

キョーコは台所に篭り、ため息を吐いた。

(これって夢よねえ?いつ覚めるの?)

そこへ勢いよくミモリが帰ってくる。

「ショー兄様~。はい、プリン!」

「でかした、ミモリ」

ショータローに褒められ、ミモリは満面の笑みを浮かべた。

「ミモリ、えらく速かったのね」

「そうなの、姉様!姉様知ってる?今、街に殿下の遣いの方がいらしていたのよ!」

「ええ、さっき聞いたわ。なんでも…夕べのダンスパーティーでクオン殿下が見初めた少女をお捜しになっているらしいとか」

「そうなの!なんかその子が落としていった靴を国中の娘に履かせるとか……」

「靴……」

台所の奥でキョーコはギクリと肩を強張らせた。

「ミモリはショーに張り付いてたから知らないわね。昨日パーティーで殿下と踊る素敵な方がいらしたのよ。きっとその方をお捜しになっておられるのね……」

ショウコの言葉に嫌な予感がした。キョーコはぶるりと躯を震わせる。

(嫌~っ!私のことよね?どうしよう~)

キョーコの困惑をよそに、ショウコとミモリは楽しげに話を続ける。

「きっとどこかのご令嬢よ。殿下とのワルツはとても素敵だったもの」

「でもこんな下町来てるんならそうでもないんじゃない?」

「あら……じゃあその靴が履けたら玉の輿に乗れるわねえ」

「ショウコ姉様ならいいのに。私はそんなの興味ないし。私には兄様だけいればいいんだもん」

そう言って、ミモリはショーに抱き着いた。

そこへコンコンと玄関を控えめに叩く音がし、眼鏡をかけた青年が開いていた扉の向こうに現れた。

「失礼。開いていたものですから……」

「ミモリ、あなたまた閉め忘れていたのね」

「ごめんなさい、姉様。だって慌ててたんですもの」

「あの…どちら様ですか?」

「私は社と申します。クオン殿下の遣いで参りました」

ショウコとミモリは顔を見合わせ、慌てて居住まいを正した。ショーは相変わらずソファーで一人踏ん反り返っている。

焦ったのはキョーコだ。

(ひえーっ!に、逃げないと!!)

なんとか社の目をかい潜り、家から出られないかと裏口を探したが見つからない。代わりに見付けたのはなんと昨日履いていた靴の片方だ。

(な、なんで片割れがあんな所に!)

こんな物が見付かれば、あの男に捕まってしまう。

キョーコは焦って、台所の窓からそれを放り投げた。

キョーコが証拠隠滅している間に、ミモリとショウコはどうやら靴を履き終えたようだ。二人とも合わなかったため、社がキョーコを呼ぶ。

「そちらのお嬢さんもどうぞ」

「い、いえ…私いいです!」

「そんなことおっしゃらないで。国中の娘に履かせろと、殿下からの命令なんですから」

「さっさとしろよ、キョーコ!どーせてめえには絶対履けないんだからよ」

ショータローの声にもキョーコは頷かない。

「い、いりません!そんなもの履きたくありません!」

キョーコは頑なに拒否したが、社は逃さない。

「キョーコちゃん、ごめんね。仕事だから……」

そう言って、逃げようとするキョーコに無理矢理靴を履かせようとした。

しかしキョーコもなんとかして社から逃れようと暴れ、結果、二人の間でちょっとしたが争い起こる。

「俺から逃れようだなんて甘いよ、シンデレラ」

そこへ一人の青年が颯爽と現れ、微笑みを浮かべそう言った。

「で、殿下!」

「げっ!」

格闘する二人の前に現れたのは、なんとクオンだった。

「社さん、靴はもう履かせなくていいですよ」

「へ?」

「彼女が俺の一目惚れした相手です」

「「「「「はあっ!?」」」」」

クオンの言葉に、その場にいた全員の声がハモった。

「ちょ、ちょっと、キョーコちゃん、どういうこと?」

「なんでキョーコが王子と!」

「キョーコに一目惚れだとお!」

ショウコはキョーコに問い、ミモリとショーは驚愕に口をポカンと開けた。

もっと驚いたのはキョーコだ。口をはくはくさせて、クオンを指差し、固まっている。

「今、この家から夕べの靴の片方が落ちてきてね。で、中に入ると君がいたんだ、シンデレラ。いや、キョーコ姫」

にこりと爽やかに笑うと、凍り付いているキョーコに近付いて、その手を取った。

そして彼女の瞳を見つめて言う。

「どうか私と結婚して下さい」

クオンは跪いて、キョーコの手の甲に口付けた。

「いーやーっ!!」

これ以上ないほど大きなキョーコの絶叫が響き渡った。




「…………」

自分の声に、キョーコはようやく目を覚ました。

「あ、悪夢だわ……」

大量の汗をかいている。

夢だとわかっていたが、本当に夢で心底ホッとした。

「ああ~怖っ!シンデレラなんか、絶対なりたくない!」

悪夢を拭い去るように、キョーコは頭をプルプル振る。あんなのは夢だ。現実じゃない。そう思うことにしたはずなのだが……。

その日、キョーコは一日挙動不審だった。

蓮の姿がちらりとでも見えようものなら、全速力でその場から逃げ出す。そんなことを繰り返していた。

「なんかあったの?」

あまりにも不自然なキョーコの態度に、奏江からそう尋ねられる程だった。

「べ、別に。なんでもないわ!」

「ふーん……ならいいけど。それより、今ちょうど事務所に敦賀さんいるみたいだけど?」

「嘘!じゃあ早く帰らなきゃ!」

(どこがなんでもないのよ。やっぱりおかしいじゃない)

奏江はそう思いながらも言わなかった。今聞いても絶対答えないだろうから。

「モー子さん、ありがとう。じゃあ私、先に帰るから!」

慌ててドアを開けたキョーコの目に入ったのは、今日一日必死で逃げていた男。

「ひっ!ひえぇぇ!」

キョーコはまるでお化けにでも会ったように恐れ戦いた。

目が合ったとたん、そんな悲鳴を上げられた男、敦賀蓮は流石にびっくりして、一瞬身体が硬直する。

「最上さん?」

「つ、敦賀さん!わ、私急いでますのでお先に失礼します!」

脱兎の如く逃げていくキョーコを、蓮は捕まえることが出来なかった。

「お前、一体キョーコちゃんに何したんだ?」

「キョーコに何かしたんですか、敦賀さん?」

社と奏江、二人に呆れた眼差しで問われ、蓮はがっくりうなだれた。

「人聞き悪いこと言わないで下さい。別に俺は何もしてませんよ!」

(むしろこっちが聞きたいくらいだ!)

今日一日、キョーコに逃げられていた蓮は、内心傷付いていた。やっと捕まえられると思っていたのに、あの態度。

(俺が何したって言うんだ……)

へこんでいる彼にはわからない。わかるはずもない。

まさか、彼女が夢のせいで自分から逃げているなど……。

夢の中の蓮がキョーコにプロポーズした。

そんな理由からだなんて露にも思わなかった。

「早く仲直りできるといいな」

憐れみの目で社に見られ、蓮はため息を吐くしかない。

明日は捕まえられるだろうか。答えは誰も知らない――。





<後書き>
シンデレラ、書き直してみました。いかがでしたでしょうか?
大筋しか覚えていなかったので、大変でした。同時進行で白雪蓮を書いているため、頭が変になりそうでした

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