花とゆめ連載「スキップ・ビート!」の感想&二次SS中心です。当サイトはリンクフリーです。
  • 05«
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • »07
スポンサーサイト
--年--月--日 (--) | 編集 |
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「願い side K」
2015年06月09日 (火) | 編集 |
「願い side K」





まだセツカでいたい。セツカとしてあの人の傍にいたい。

『TRAGIC MARKER』の撮影が終わりに近付くにつれ、キョーコはその思いを一層強くしていった。

セツカとしてカインの傍にいる間は、極度のブラコンという設定を言い訳に四六時中べたべたいちゃついていられる上に、独占欲を全開に他の女を牽制できる。

『この人はあたしのモノよ』

なんてセリフ、最上キョーコのままでは絶対に言えない。言える訳もない。

堂々と自分の所有権を主張できるセツカが、キョーコは羨ましかった。

そしてカインからも『可愛い』『愛しい』『大切だ』と何度も何度も、時には言葉で、時には態度で示してもらえた。たとえカインからでもキョーコには充分嬉しかった。

抱き締められ、耳元で囁かれたあの時も、セツカでいられないほど堪らなく嬉しかった。

今だけはあの人は私のもの。私もあの人のもの。

けれどそれももうすぐ終わる。

キョーコにはそれが酷く悲しく辛いことだった。だからセツカである時は幸せで、これまで以上に全力でセツカを演じていた。いや、演じていたつもりだった。

その変化に気付いたのはまさかの村雨だった。

「最近元気ないけど体調悪いの?暑さにやられた?」

カインが撮影中、隙を見て村雨がセツカに話しかけてきた。無視しようと思ったが、本気で心配している様子だったのでキョーコは言葉少なく「大丈夫」と答えた。

「ならいいけど……あ、もしや兄貴とケンカした?」

「は?そんな訳ないでしょ」

あんた、バカなの?といつも通りに冷たく睨みつけると、村雨はまだ何か言いたそうにしていたが、監督に呼ばれ、撮影に戻っていった。

「なんなのよ、まったく!」

(セツカが元気ない訳ないじゃない!今はこの上なくセツカを楽しんでるのに!)

キョーコは村雨の言葉に内心憤慨していた。

けれど村雨の意見は正しかったのだ。

キョーコは気付いていなかったが、実はキョーコは俯いて思い詰めた顔をしていたり、辛そうに何度も息を吐いていたのだ。それもカインが撮影中で、かなり離れた所にいる時に限って。

カインの目がない所では無意識にキョーコの気持ちが表面化していることに、キョーコは気付かなかった。




そんな中、グアムでの最終撮影に入ることになった。

撮影は順調に進んだが、そのことが余計にキョーコを暗鬱な気分にさせた。撮影が進まなければセツカとして長く傍にいられるのに。撮影なんて出来なければいいのに。

そんなことを考えてしまう自分が、キョーコは自分勝手で醜くて、嫌で嫌で仕方なかった。

キョーコの願いが通じたのか、グアムでの撮影の終盤、天候の関係で撮影が中止になってしまった。

『セツ、出掛けるぞ』

ホテルで暇をもて余し、ぼんやりしていたセツカを、カインが引っ張り上げた。

『えっ!?この中を?外凄い雨よ?』

『タクシーを使えばいいだろう?』

『でも……』

渋るセツカを無視し、カインは強引に連れ出した。ホテルの前に停まっていたタクシーに乗り込み、行き先を告げる。セツカが逃げないように手を握ったままで。

『グアムは初めてだったんだろう?ずっと撮影でろくに観光できなかったからな。俺がお前を連れて行きたいんだ。まあ、この雨じゃ行けるとこは限られているんだが……』

『だから別にどこにも行かなくてもいいったら!あたしは兄さんさえいればいいの!』

(敦賀さんの傍にいられるだけでいい。それだけで嬉しいから)

外は激しい雨だ。普段は旅行者で賑わっている通りには、今日は人っ子一人いない。車やバスは何台か通るが、歩いている人は見当たらない。それだけで南国であるはずなのに、なぜかこの天気のように暗く感じてしまう。

そんなことを考えながら外を眺めていると、タクシーが停まった。着いたのは地元のショッピングモールのような所だった。ここも普段は賑わっているのだろうが、今日は閑散としている。

『ずっと俺に付き合わせていたから土産を買う暇もなかっただろう?好きなだけ見ていい。今日は俺が付き合ってやる』

『もう!兄さんに付き合うのは当たり前なのに……。それにお土産なんて別に必要ないでしょ!』

そう怒ってみたが、南国の色鮮やかな雑貨や、日本では見たことのない変わった食品が並べられている店内は、おもちゃ箱の中のようで中々楽しい。セツカはローテーションながらも目をキラキラさせてそれらを見て回った。

一通り商品を手に取り、どれがいいか厳選する。そしてセツカはだるま屋夫妻と奏江用、千織用にも土産を買った。極秘ミッションだが、グアムに行くことは知らせていたからだ。それからカインが少し離れている間に自分用とコーン用に小物を選んだ。

会計をしていると、カインが慌ててやってきてカードを出して支払いをしてしまう。

『もう!これぐらい自分で出すのに!』

『俺がお前に買ってやりたかったんだ』

『でもこれはお土産なのに……』

だから自分で出したかったのに……。

『いつも可愛い妹が世話になっているんだ。俺からのささやかな礼だ』

そう言ってしまわれると引き下がるしかない。セツカはプンっと照れ隠しに怒りながらも、ありがと、と言ってカインの腕に巻き付いた。そこで初めて気付いた。

『兄さん、それ、何持ってるの?』

『ああ。俺も土産だ』

『ふ~ん』

(社さんへのかしら?だったら一瞬に選びたかったのに)

キョーコはそう思いつつも、片時も離れたくないという自分の本心に気付き悲しくなった。どれだけ独占したいのだろう。ほんとに恋とは愚かだ。

カインの腕に甘えるように摺り寄ると、カインは微笑んで頭を撫でてくれた。セツカだけに向けられるカインの優しく甘い表情と仕草。それだけで泣きそうになる。

『セツ、次に行くぞ』

『次?どこに行くの?』

『行けばわかる』

待たせていたタクシーに乗り、二人は雨の中次の場所を目指した。二人を乗せたタクシーは市街からどんどん離れていき、植物しかない道を進む。そして鐘らしき物が見えると、そこでタクシーが停まった。降りると海岸が見えた。恋人岬なる所らしい。晴れた日だとさぞ見晴らしがよいだろうそこは、バス停とお店、入場券やお土産を買う小さな建物しかなかった。

カインに案内され、セツカはゆっくりと展望台へ上がる。降り続く雨と激しい風に、普段はカップルでいっぱいだそうなそこには二人だけ。

風に飛ばされそうになると、カインがぐいっと引き寄せ胸の中に抱き込んでくれた。ドキドキとセツカ、いや、キョーコの胸が高鳴る。

キョーコは、かすかに見える広い海を見ながら、いつか本当の恋人同士になったら、二人で来られるといいなと秘かに願った。

(有り得ないけど……)

雨がまた一段と強く降りだした。

『さすがにこの雨はキツイな。セツ、タクシーに戻るぞ』

『うん……』

一向に止まない雨の中を、二人は帰途に着く。タクシーを使ったとはいえ、恋人岬に行ったせいでかなり濡れてしまった。

『セツ、風をひくから、先にシャワーを使え』

『嫌よ。兄さんこそ、撮影があるんだから先に入って』

『お前が風邪をひいたら、それこそ心配で撮影に行けない。それとも一緒に入るか?』

『い、いい!じゃあ、に、兄さんを心配させないために先に入るわね!』

いやらしくニヤリと笑われ、セツカは慌てて浴室に向かった。

(し、心臓に悪い~~。……はっ!でも超絶ブラコン設定のセツカなら喜んで一緒に入ったかも~~。それに今度こそ敦賀さんのボディを拝めるチャンスが~~)

などと悶々と悩みながらキョーコはシャワーを浴びた。

そしてシャワーから出ると、上半身裸のカインがセツカを背後から抱き締めた。

『に、兄さん!?なに!?どうしたの?』

慌てて尋ねたセツカの首に、カインは何かを着けた。

『??????』

『雨の中付き合わせた礼だ。受け取れ』

それは小振りのペンダントだった。薄い水色の硝子の中に星の砂や小さな石がいくつか入っている。青や緑、ピンクの石が光によって微妙に色を変えて輝く。液体も入っているせいか、揺れる度ふわふわと宙に漂っている。形もハートで可愛らしい。

『兄さんに付き合うのは当たり前よ!それに楽しかったからお礼なんていらないのに……でも…ありがとう。大事にする』

セツカが恥じらいながら言うと、カインは優しげに微笑んだ。

(敦賀さん……)

『今日はほんとにありがと。スッゴく楽しかったわ』

セツカの中のキョーコは泣きそうだった。それを誤魔化すように早口で礼を言うと、カインがまた笑って頭を優しく撫でてくれた。

この人はどうしてこんなに優しいんだろう。どうしてこんなに好きにさせるんだろう。

(セツカだから……?)

セツカなら、本当のセツカならよかった。

セツカになりたい。心から本物のセツカに。

セツカになってずっとこの人の傍にいたい。この人を独占したい。この人に愛し愛されたい。

キョーコはペンダントを握りしめ願った。




次の日、天候も回復し、郊外での撮影が開始された。そんな中事故は起こった。

前日の雨でぬかるんでいた地面に足をとられ、子供が転びそうになり、勢いあまってカメラを繋いでいた機材にぶつかった。ぐらりと揺らいだ機材が重いカメラを支えきれず、今にも子供に倒れそうになっている。

近くで見ていたセツカがそれに逸早く気付いた。セツカはとっさに子供を突き飛ばす。けれどセツカ自身が逃げる時間はなかった。

ドバンという轟音とともに百キロ近くある機材がカメラとともにが倒れ、セツカはその下敷きになってしまった。

あまりのその場にいた全員が一誠にそちらに目を向けた。もちろんカインも。そして下敷きになっているセツカを視界に入れた瞬間、突き動かされたように駆け出した。

カインの目にはただ倒れて動かないセツカしか入っていない。傍にいたスタッフを押し退け、セツカに近付いた。

「最上さんっ!!!」

割れたカメラに構うことなく、カインはセツカの上から機材を退かせた。セツカを起こそうとすると、ぬるりと手に濡れた感触がした。見ると、手が真っ赤に染まっている。滴り落ちた血がセツカの頬を濡らしたが、セツカはピクリとも動かない。、セツカ、いや、キョーコの頭からは大量の血が流れ出していた。

「最上さん!!最上さん!!しっかりして!!!」

カインであることも構わず、蓮が必死に叫ぶ。けれどキョーコの反応は返ってこない。

「そんなっ……!嘘だろっ!!キョーコちゃん!!キョーコ!!!」

ざわつく周囲の喧騒も蓮の耳には入ってこない。キョーコの頭を膝に上げ、抱き締めた。そしてただひたすら呼び続ける。そんな蓮の肩を叩き、この映画の監督である近衛がそっと囁いた。

「今911に連絡したから。大丈夫。救急車がすぐに来るよ。だから、落ちついて、敦賀くん」

「監督……」

今にも泣きそうな顔で蓮は監督を見た。

近衛は蓮を落ち着かせるようにふわりと笑い、キョーコの様子を窺った。出血箇所が頭だから血の量は多いが息はしているようだ。頭を打っているのが気になるところだが……。とりあえず頭の血を止めようと止血できる物をスタッフに持ってこさせ、救急車の到着を蓮の隣で待つ。

近衛の冷静な対応に、蓮も少し落ち着きを取り戻した。けれどキョーコから離れることはせず、力のないキョーコの手をずっと握り締めている。まるで温かいキョーコの手を感じて、生きているのを確かめているかのように。それとも自分の力をキョーコに与えようとしているのか。

幸い救急車はすぐに到着した。救急車の中ですぐさま応急措置が開始されたが、キョーコの反応は相変わらずない。そしてキョーコは、目を覚ますことなく病院に搬送された。




次にキョーコが目を覚ました時、キョーコはキョーコではなかった。

「カイン兄さんはどこ?」

慌てて病院に駆けつけたテンにセツカは訊ねた。

「キョーコちゃん、そんな状態でセツカにならなくてもいいのよ」

テンが気遣いそう声をかけたが、キョーコは不審そうな表情を浮かべ、素のキョーコではない顔で彼女を睥睨した。

「キョーコ?誰、それ?」

「キョーコちゃん?何を言ってるの?冗談よね?」

スポンサーサイト

[READ MORE...]
「かぐや姫(もしくは三“太郎”)」某携帯CMパロ
2015年06月09日 (火) | 編集 |
※こんなタイトルですがいつものような童話シリーズのパロディ一ではありません。怒らないで読んで下さい。





「かぐや姫(もしくは三“太郎”)」





一体誰がこんな企画を通したのか、そもそも企画を思い付いた人の脳内はどうなっているのか。その人の頭をかち割りたい。今回初めて参加したキョーコは、現場に訪れて心底そう思った。

場所は某撮影スタジオ。もうすぐ今回のCMの簡単な説明がなされる。

共演者の名前を聞いた瞬間、キョーコは回れ右して帰りたくなった。そして彼らが目の前に現れると、やはり、というか予想通り、というか、当然のことのように見るも不快な展開が始まった。繰り広げられる異様な光景を、いつも通りなのか誰も止めようとはしない。目の前の男達が三つどもえの争いしているのを見ていると胃が痛くなってくる。黒崎の意向で、何のCMの話か一切知らされずに現場に着いたキョーコは、この仕事を引き受けたことに後悔していた。

超大手のCMの、今一番人気のシリーズの新作に抜擢されたのは素直に嬉しい。しかしまさかこれだとは!

(黒崎監督ってことでなんで予想できなかったのぉーー!?私のバカーーーっ!!)

自分の愚鈍さを呪いたい。そして隠していた黒崎が憎い。

しかし現場に着てしまった以上はやるしかない。今更逃げる訳にはいかない。キョーコは彼らにバレないようにこっそりとため息を吐いた。

(こうなったらさっさと撮影を済ませて帰ってやるわ!)

キョーコは息巻いて黒崎に詳細な説明を求めた。しかし彼はニヤリと笑ってこう言った。

「お前は“カグヤ”らしく振る舞えばそれでいい。このCMはいつもあいつらの好きにさせているからな。お前もあいつらの雰囲気に合わせて“カグヤ”を演じろ。まあ一応設定はあるから、それだけは外さねえようにな」

そんなアバウトな説明しかせず、黒崎はスタッフの所へ戻っていった。

黒崎らしいと言えばそうだが、それでは困るのだ。何しろ目の前にいるのはキョーコにとって最悪と言ってもいい男ばかり。この三竦みを前にどうしろと言うのだろう。

雰囲気は既に険悪である。表立って争ってはいないが、視線が絡む度睨み合っているのがわかる。

キョーコはげんなりとため息を吐いた。

(私はカグヤ、カグヤなのよ~~~)

そう思い込もうとしたが、この三人を前に中々役に入り込めない。そしてキョーコが頭を抱え、唸っている間にカメラテストが始まった。




「お前ら~“カグヤ”は“桃太郎”の婚約者だぞ~。ちゃんとわかってんだろうなあ!あとカグヤ!お前は桃太郎とラブラブなんだから、そんなガチガチに緊張してんじゃねえよ!あと桃太郎!いつもの余裕はどうした!」

カットと叫び、黒崎は怒鳴った。目の前にいるのはぐったりとしている少女と、三つどもえ状態の男たち。男三人はそれぞれ三人の“太郎”を演じている。日本の有名なお伽噺『桃太郎』『金太郎』『浦島太郎』の主人公をモチーフにした役だ。“桃太郎”を敦賀蓮。“金太郎”をレイノ。“浦島太郎”を不破尚が演じ、好評を博している。

今回は“桃太郎”の婚約者である“カグヤ”が初登場する。その“カグヤ”を演じるのがキョーコだ。本来なら“桃太郎”が“カグヤ”を二人に紹介し、ラブラブな所を見せつけ、羨ましがらせる。はずなのだが……。

まずキョーコが蓮とラブラブ……には程遠かった。緊張し、蓮に触れられる度硬直しているのだ。そしてそんなキョーコを残り二人も狙っている。蓮が離れると、キョーコに近付き、抱き寄せようとするのだ。もちろん蓮がそれを許すはずもなく、あくまでも笑顔で、だが瞳は射殺さんばかりに二人を睨みつける。ラブラブな婚約者である設定だが余裕が無さすぎである。そして“カグヤ”であるキョーコを巡り、三人は醜悪な争いを繰り広げているのだ。

これでは撮影に入れない。

いがみ合う男達を目の前に一体どうしたらいいのか。“カグヤ”であるキョーコは途方に暮れた。

というか“カグヤ”は本来月へ帰るはずだ。しかも無理難題を男達に押し付けて。

(だいたい三人の雰囲気合わせて、“カグヤ”らしく振る舞えって言われても…………そうだ!)

キョーコは何か閃いたかのように手を叩き、いそいそと黒崎の元へ向かった。キョーコが黒崎と話をしたその少しあと、再びカメラテストが再開された。

相変わらず三人の太郎はカグヤを巡って三つどもえの争いを繰り広げている。少し違うのはカグヤが何故か悠然と構えているところだ。桃太郎の過剰な愛情表現に固まりもせず、自分から抱き着き、腕を絡ませる。そして艶然と微笑み、挑発するように他の二人を見やるのだ。

『言い争いばかりして……私は桃太郎様のモノなのよ。諦めて下さらない?』

『そうだ。さっさと諦めてくれないかな?いい加減迷惑なんだけど?』

バカにしたような桃太郎の物言いに、カグヤも頷きながらクスクスと笑う。

『『嫌だ。お前は俺の女だ』』

同時に発せられた言葉に桃太郎は呆れた。カグヤもバカね、と言わんばかりに嘲笑する。しかし、そこからカグヤの態度が少しばかり変わった。するりと桃太郎の腕から離れ、妖しくも美しい笑いを浮かべるカグヤ。

その小悪魔めいた、残酷な程艶のある微笑みに、三人は魅了された。

『そう……そんなに私を手に入れたいのね。……いいわ。じゃあこれから示した物を用意出来た方と結婚いたします』

その言葉に桃太郎は慌ててカグヤの袖を掴んだ。

『カ、カグヤっ!何言ってるの!?君は俺の婚約者だろう?』

『そうね……。だから必ずあなたは用意してくれると信じてるわ。でも用意出来なかったら、悲しいけれど私は月に帰ります』

掴まれていない方の袖で目元を押さえ、よよよとわざとらしく泣いて見せたカグヤは、しかし次の瞬間には桃太郎に向かってにこりと笑った。

『だから頑張って下さいましね』

カグヤはそう言って桃太郎から離れ、三人それぞれに用意する物を書いた巻物を渡した。悠然と微笑みながら。そして優雅に口元を扇子で隠し、ホホホと声を上げて笑いながら帰っていった。

それを呆然と見送ったあと、三人は一斉に巻物を開いた。そして一瞬にして固まってしまう。一番早く気付いたのは浦島太郎だ。

『こんなん用意できる訳ねえだろ、カグヤめ!あのアマ、誰とも結婚しねえつもりか?』

『おや?君は諦めるのかな?それなら助かるけど……俺は用意してみせるよ』

『なっ!誰が諦めるっつったよ!用意してやるよ!見てろよ、カグヤ!』

『まあお前に用意出来るとは思えないがな。せいぜい足掻くがいい、浦島太郎』

そう不敵に笑って金太郎は去っていった。




しばらくしてから、カグヤが求めた物を、三人はとりあえず持ってきた。

『はあ?これが人魚の歌が聴こえる珊瑚?あんたバカにしてるの?これ、珊瑚じゃないし、どう聞いてもナルシストなあんたが自分に酔しれながら歌ってるだけじゃない?さっさと帰って!!もう二度と私の前に現れないで!!!』

最初に現れた浦島太郎は、ケチョンケチョンにそう貶され、言い返すこともなくすごすごと帰っていった。

『それは何?どう見ても妖精じゃないわよね?霊魂?はあ……私が求めてるのはそんなモノじゃないわ……もっと純粋で清らかな、とてもキラキラした存在よ。あなた禍々しいから妖精を知らないのね……もういいわ。帰って……』

次に来た金太郎も、呆れ果てたようにそう言われ、何か言いたそうにしながらも一緒に来た動物達に説得され、大人しく帰っていった。

そして最後にやってきたのが桃太郎だ。

桃太郎は大きな一輪の薔薇をカグヤに見せた。まだ開き切っていない見事な赤い薔薇。カグヤが示した物と明らかに違うそれに、カグヤは悲しそうに瞳を伏せた。

『それが妖精が持つ魔法の石だと言うの?バカにしないで』

『残念ながら魔法の石は見つからなかった。君にあげたのが最後だったんだ。ごめんね』

『そう……仕方ないわ』

『だから代わりにこれを持ってきた』

『………………?』

『わからない?これはクイーン・ローザと言われる伝説の薔薇。この花からはプリンセスが眠る石が産まれてくる』

『嘘言わないで。ただの薔薇にしか見えないわ』

『嘘なんてついてないよ。触ってごらん……』

カグヤが触れると、大輪の薔薇が徐々に開いていき、やがて完全に開いた。そしてその中央からピンクの小さな石がこぼれ落ちる。キラキラと輝く石。カグヤはそれを嬉しそうに眺めた。けれど……。

『素敵ね……でも…私が欲しかった物とは違うわ……だから私月に帰りま……』

『帰さないよ、絶対。君を月には絶対に帰さない。それに君との家族割申し込みして、もう契約してきたから。ちなみにもちろん結婚の書類も提出済。もう遅いよ、俺のガグヤ姫』

そう言ってニコリと笑顔を浮かべる桃太郎。ガグヤには背中に黒い羽が見えた。そしてカグヤは腕を掴まれ、屋敷から連れ出されてしまった。

『ちょっ、ちょっと待って!私裸足……』

カグヤが抗議すると、桃太郎は彼女の体を軽々と抱き上げた。所謂お姫様抱っこの体勢である。そして自分の牛車に乗り込むと猛スピードで自分の屋敷まで走らせた。

『早く新しい家族を作って、また家族割申し込もうね』

言われた言葉に戦慄が走る。ガグヤ、いや、キョーコは叫んだ。

「く、黒崎監督ーーーっ!!!おかしくないですか!いくらなんでもこの展開おかしいでしょ!!なんで止めてくれないんですかー――っ!!!」




<後書き>
すみません、すみません。出来心なんです。ほんとすみません。某どころかまるわかりな携帯会社のCMパロです。配役や俳優さんに失礼だ、とかあると思いますがご容赦下さい。乙姫まで出てきたので慌てて仕上げました。
「モー子さんの心配」2
2015年05月27日 (水) | 編集 |
※本誌ネタバレ注意。ACT.221までを読んでる方のみお読み下さい。。後書き後のオマケは最新話ACT.224までを読んでからだとなおわかるかも。





「モー子さんの心配」2





『私に子供はおりません』

その残酷な言葉に、一瞬耳を疑った。

それは偶然だった。楽屋で主演を待つ間の時間潰しに、たまたま見ていた人生相談番組にあの娘の母親が出ていた。どうやら普段出演している弁護士の代打らしい。落ち着いた色のスーツを着こなし、いかにも出来る女という雰囲気だ。醸し出している空気に一切の隙がない。

確かに普段のあの娘とは全然違うわね……でも……。

やっぱりあの娘が演じる『ナツ』には似ている。無表情になる時のナツの人形みたいな無機質な顔と雰囲気がそっくりだ。心の内を見せない、いや、そもそも心があるように見えない、そんな風に見えるところが何となく似ているのだ。

感情的に訴える相談者にも、顔色一つ変えず淡々と法律的見解を述べる。『冷酷』と言う言葉が似合う、と今回のドラマの共演者も言っていた。

そして相談者がキレて言った言葉に彼女は淀みもせず答えた。

子供なんていないと――。

無表情で無機質な、人形のような顔を崩すことなく。

あの娘がこれを見ていないといいけれど――。

母親のことは割り切っているように振る舞っていた。氷点下のような親子関係だと。確かにもう慣れたと言っていた。『コンニャク』みたいに柔軟になっていると。そうやって受け流せるようになっているといったって、悲しくない訳ない。傷付かないはずがない。

私には見せない心の深い所でやるせない気持ちを抱えているはずだ。いや、見ないように蓋をして隠しているだけで、もしかしたら本人もわかっていないのかもしれない。自分がこんなにも辛い状態であることを。

『私の存在を疎ましいと思ってる』

そう言った時のあの娘の表情で、私が思う以上に母親とのことは相当根深いモノなのだとわかった。そしてそれを言わせてしまった自分に腹がたった。

その矢先がこれだ。

あの娘の存在を否定する言葉に、あの娘がどう思うか想像に難くない。よりにもよって疎ましい以上の、『存在しないもの』として扱われてしまったのだ。これ以上あの娘に傷付いて欲しくない。あの娘の瘡蓋を穿り返すことはもう止めて欲しい。

だからどうか見ていませんように――。

そう祈りながらも気が気ではなかった。無意識に携帯を手に取ってしまう。けれどあの娘のナンバーを鳴らすのは躊躇われた。

もし今電話に出てくれて、見ていなければそれはそれでいい。けれど何を話したらいいかわからない。あの娘に電話する緊急性のある話なんて思い付かない。鋭いあの娘のこと、滅多に電話なんかしない私が突然他愛ない話で電話したら不審に思って何か気付くかもしれない。

そう思ったら押せなかった。

暫く携帯を手に悶々としていると、スタッフが呼ぶ声がした。ようやく主演の俳優がが来たらしい。時間を見るとそれ程時間は経っていかった。けれど何時間も経っている気がする。これから本番なのになんだかどっと疲れた。

ミネラルウォーターを口に含み楽屋を出ると、階下から聞き覚えのある声が耳に入ってきた。吹き抜けだから走る足音まではっきりと聞こえる。見下ろせばどぎついピンク色が駆け回っているのが見えた。

なんだ……仕事中だったんだ。

よかった。

胸を撫で下ろした私の耳に、あの娘の元気な声が聞こえてくる。やっぱりあの娘には笑顔でいて欲しい。熱すぎる友情はウザいけれど、悲痛な表情をされるよりはマシだ。

今度美味しいハンバーグの店にでも誘ってみよう。それとも物凄く、物凄く不本意だけど、こないだ見つけたあの娘の好きそうな、メルヘンチックで可愛い雑貨が置いてある店にでも……いや、そこはやっぱり無理だわ。さすがにあの店に立ち入る勇気はない。

ハンバーグの店よ、ハンバーグの店。あそこにしよう。目玉焼きののったやつあったかしら。誘う前に調べてみよう。

そう思い付いて、私は軽やかにスタジオへ向かった。





<後書き>
ACT.221を読んだ後に思い付いたネタです。ちょこっと最初だけ試しに書いてたのを今回続きを書いてみました。蓮キョの本誌の続き妄想も書きたいけど、色々浮かんでしまって中々難しいです。オマケはACT.224を読んで追加しました。




オマケ


そして誘ったハンバーグ専門店で聞いた。

結果的に言うと、この娘はあれを見てしまっていた。

けれど私の心配は杞憂だったようだ。

確かにちょっと落ち込んだ、と素直に白状した。けれど意外と平気そうな様子で、これも演技の糧にすると明るい顔で言い切った。

ハンバーグが来ると何か思い出したのか、少し顔を紅くさせる。

「どうかしたの?」

「ななな、何でもないわ!!わ、わあ~美味しそう!早く食べましょう!!」

あまりにも不自然に誤魔化されたけれど元気ならまあいい。そのうち話してくれるかもしれないし、いつまでも吐かないなら無理矢理聞き出すだけだ。

とりあえず今日はこの娘が元気でよかった。

落ち込んだこの娘を誰が立ち直らせてくれたかは知らないけど、それは感謝する。少し悔しいけど、きっと私には無理だった。

その時を見てないからわからないけれど、落ち込んだと言うからには、相当ショックだったのだろう。

それをいつも通りにしてくれた。

「こっちも美味しいわよ。食べてみる?」

皿を差し出せばキョーコは嬉しそうな顔で頷いた。

やっぱりこの娘には笑顔が似合う。

本当によかった。

「彼のアドレス」
2015年05月27日 (水) | 編集 |
「彼のアドレス」





本当はね、知りたかったの。

あの人から教えてと言われたメールアドレス。必然的に交換することになるあの人のメールアドレスを、あの人が自分から教えてくれるチャンスだった。

それなのに突っぱねてしまった。

自分で自分を抑える自信がないから、せっかくのチャンスをふいにした。

いつどこにいてもあの人と言葉をやり取りできる魅惑のアイテム。でもね、機械の文字じゃあの人のぬくもりを感じられない。あの人の言葉を見たらどうしたってその声が欲しくなってしまう。いつどこにいてもあの人のそばにいたくなってしまう。

なんて欲張りなんだろう。

それでも……グアムからあの人が帰ったら、また会える。私に動画を見せる時間をくれた。証拠確認と言う名の一緒にいる時間を確保できて嬉しいと思うこの気持ち。忙しいあの人の貴重な時間を潰してしまうとわかっているのに、その時間だけでもあの人を独占できる喜びにたまらなく心が震える。

浅ましくて強欲な自分に呆れ、恋の愚かさを再度自覚してしまった。

やっぱり私は恋をしたらどうしようもなく馬鹿な女に成り下がるのね。

けど……次にメールアドレスを聞かれたらどうしよう。今度は断れないかも。

でもそれはきっと社交辞令。あの人にとったら交換してもきっと使わないモノ。けれど私にとっては宝物。聞いたらずっとそれを眺めてしまうんだろうな。

そして下らないことでメールしようとして送れなくて、ずっと未送信のまま溜まっていくのよね。

もし、万が一にでもあ人からメールがきたら宝物にしよう。うっかり消しちゃったらどうしよう。そうならないように保護をかけて置いたらいいかな。誰にも見られないようにパスワードも必要よね。モー子さんにやり方教えてもらわないと。

なんてあり得ないことを想像して私はクスリと笑った。

隣のシートに座っていた年配の女性が不思議そうに尋ねる。

「何かいいことでもあった?」

「あ、そう言う訳じゃないんですけど……」

「そう?でもあなたさっきから嬉しそうだったわよ」

にこりと微笑まれ、恥ずかしくなって顔が赤くなるのがわかった。

嬉しそうだった?

あの人のこと、考えてるだけで嬉しいんだ、私。

ぱたぱたと手で顔を扇ぐとそれが目に入った。

右手に書いてくれた彼の“しるし”。私だけが知る彼と過ごした彼との時間の“アカシ”。

自然と笑みが浮かぶ。

早く日本に帰ってきて下さいね、敦賀さん。あなたが日本に帰ったら強奪しに行きますからね。

証拠の動画と、これを書いて貰いに。

メールで時間なんて約束しません。あなたの声であなたの時間を拘束させてもらいます。

図々しい後輩でごめんなさい。

私は心の中で謝罪しつつ、グアムに空から別れを告げた。





<後書き>
今年(2014年)はいらないと言ってくれたけど短くてもいいからどうしてもあげたくて、リクエストを無理矢理して書いてみました。自分がリクエストした本誌妄想のキョーコサイド的な話です。が、本人のリクエスト変更により途中で書くの止めてたんですがコミックが出たついでに続きを書いてみました。
メール拒否の真相は何でしょうね。蓮も思ったみたいに私も好きならメアド知りたいと思ってしまいますからねえ。
◎「モー子さんの心配」1
2015年04月08日 (水) | 編集 |
「モー子さんの心配」





最近あの娘の様子がおかしい。

以前からあの娘は他人とは違った感覚の持ち主で、変わっているとは思っていたけれど、ここ最近は特にそれが顕著で……とにかく挙動不審なのだ。

変にボーっとしていたり、かと思えば何か一心不乱に作業していたり。思い詰めているような顔をしている時もある。顔を真っ赤にしていた時もあった。

何かあった?って聞いても『何もないわ』としか言わない。

社長のミッションがそんなに大変だったのかしら?

まあ私のもそれなりに大変だけれど。

でも本当におかしい。

あの娘が私にしたみたいに尾行でもしようかしら?そう思って尾行したけれどすぐバレて、

「私がモー子さんに気付かない訳ないでしょう!」

と、なぜか自信満々に言われてしまった。

そう言えば秘密のバイトの時も全部バレてたのよねー……。私変装ヘタなのかしら?いえ…まさかそんな訳ないか……家族でも外で会った時わからなかったから……うん、そんなことないわよね。やっぱりあの娘が特殊なのよね。何者なのかしら、あの娘。

……と、本題からそれたわ。

とにかくあの娘をもう少し観察しないといけないわね。

そう思って私は前より頻繁にあの娘、キョーコに会うことにした。




「やっぱり何かあったんでしょ!」

お互い仕事と社長のミッションで忙しい中、あの手この手で誘い出し探りを入れてみて、私はそう結論付けた。なのにキョーコは『なんのこと?』と素知らぬ顔だ。

「あんた、何か私に隠してることがあるでしょ!」

相変わらずキョーコは黙っている。

「あんたは私の相棒でしょ!!何かあったんなら相談してくれてもいいじゃない!それとも……それとも…あんたにとって親友ってそんなものなの!?」

多少芝居臭くなったけれど、かなり本気で問い詰めた。『親友』という言葉に流石にキョーコはピクリと反応したけれど、口を開こうととして、また閉ざしてしまった。

仕方ないわね。自分から話して欲しかったのに。

「聞いたわよ!社長のミッションで敦賀さんと兄妹になって一緒に寝泊まりしてるって!!」

「ふぇっ……!な、なんでそれを……!?」

「あんたの様子が変だから社さんに聞いたのよ!極秘ミッションだからってかなり渋ってたけどあんたの様子がおかしいって言ったら教えてくれたわ」

「わ、私……そんなに変だった?」

明らかに動揺しているキョーコに私は内心にんまりほくそ笑んだ。やっぱり悩んでたのはそのことに関係してた訳ね。

「そうよ!あんた、まさか敦賀さんに手出されたんじゃないでしょうね?」

「なっ……!そ、そんなことある訳ないじゃない。モ、モー子さんたら何言ってるの!」

真っ赤になって否定したけど、顔が強ばってるし目が泳いでいる。

明らかに何かあったんだわ。

「ねえ……、敦賀さんに何されたの?」

「……も、も、ももう!モー子さんったら、敦賀さんが私ごときに何かするなんて、あ、あり得ないわよ!」

そう否定しながらもキョーコの顔は益々赤くなっていく。ただ『敦賀さん』と言う度顔が一瞬曇るような気がした。

何かあったのは明白なのにこの感じは微妙な雰囲気だ。もし何かされて上手くいったのなら思い悩む必要はない。ラブミー部も卒業出来るし正直羨ましい限りだ。

でもそういう感じでもない。でも何もされてない感じでもない。絶対に何らかの進展があったはず。

でもこの様子じゃあ……。

強情なこの娘のこと。絶対口を割らないわね。

その後も私が口を開こうとするとキョーコはその度に目を逸らした。

だいたい敦賀さんも敦賀さんね。好きな女と四六時中、しかもホテルにいて手を出さないなんて男じゃないわ!でも……この娘のことだしなんか墓穴掘った?それでされちゃった……?まさかほんとに……いや……でもキョーコのあの反応だとまだデキてる訳じゃ……じゃあ、告白もせず、同意も得ず手を付けたってこと!?

最後までされてない雰囲気だけど……。でもこの感じ……。

純情なこの娘にどこまでしたのよ、敦賀さん!

まあ、もやもや私が悩んだって仕方ないんだけど。でもキョーコが泣くのは見たくない。あの敦賀さんが好きな女を泣かすはずはないとわかっているけれど、変な空想癖というか妄想癖があるこの娘のこと、自分で勝手に悲観的な妄想やら曲解やらして落ち込んだりしてるんじゃないかしら……。




予感が的中したのか、それからしばらくして、キョーコから留守電メッセージが入っていた。

『モー子さん……どうしよう……わたし…どうしたらいいの……?』

切羽詰まった、今にも泣き出してしまいそうな声だった。

運悪く携帯の繋がらない山奥に地方ロケに来ていたところだったから、私がそのメッセージを聞いたのは結局伝言が入って2日後のことだ。

慌てて電話をかけてみたけれど今度は向こうが留守電になっている。

何かあったのかしら……?

心配になってそれから何度かかけてみたけれど一向に繋がらない。というかすれ違いばかりだった。キョーコがかけてくる時には私が取れず、私がかけた時には取れない。

ただ私が残した『何かあったの?夜中でもいいからかけてきて』のメッセージに、『もう大丈夫。心配かけてごめんね、モー子さん』と返してきたからきっともう吹っ切れたのだろう。晴れやかで落ち着いた声に、私は少し安堵した。

けど……!

けど……けどね!

何があったか教えなさいよー、キョーコ!!

散々人をヤキモキさせて、この私を振り回してくれたくせに、今だに何にも言ってこないなんて、どういうことなのよー!!

ドラマの収録と進級試験などが重なり、しばらく会えずにいたら春が来た。何にも言わずにグアムに行ってしまったキョーコに、私は一人モヤモヤして心の中で文句を言った。

まあ、帰ってきたら盛大に締めてやる。

覚悟してなさいよ、キョーコ!!





<後書き>
正直ヒール兄妹のミッション中は忙しくてモー子さんに会っている時間なんてなかったんじゃないかなあと思いつつ書いてみました。モー子さんもキョーコの気持ちがこんなに進展してるなんて思ってないだろうなあ…でも好意には絶対気付いているはず。本誌の展開の緩急についていけません(笑)。

◎「恋する炭酸 sideキョーコ」
2015年04月08日 (水) | 編集 |
「恋する炭酸 sideキョーコ」





なんとカンドードリンコのCMに再び起用されることになった。代理店の方に聞いたところ、黒崎監督からの指名らしい。

今回も等身大の高校生ということでキャスティングされたが、描くのは友情ではなく、よりにもよって恋愛だとか。

打ち合わせの話では、キュララに別のバージョンが出るらしく、前回の弾けるような清涼感に加え、今回は爽やかな飲み心地をそのままに、桃とレモン、女の子が好きなベリーをミックスさせた新感覚の炭酸飲料とのことだ。何種類かのベリーが絶妙に配合され、レモンがきりっと、ベリーと桃の甘さがふわりと香り、爽やかかつ甘酸っぱい味わいとなっている。

その味わいをイメージさせたのが高校生の淡い恋愛なんだそうな。

私の相手役に決まったのは、『坊』でいつもお世話になっているブリッジ・ロックの光さんだ。

“恋愛”と聞いて上手く演じる自信がない私はいつになく緊張していた。

「俺、もう普通に制服なんて着る機会なんてないと思ったよ~。似合わなくて降ろされるのも嫌だけど、似合ってもショックだなあ。慎一なんてそのまま高校通っててもきっと違和感ないよ、なんて言いやがってさ」

撮影の日、挨拶に伺うと光さんがそう言って笑わせてくれた。

「でも、相手役が光さんがよかったです。私ちょっと緊張してて……」

私が話すと、光さんはなぜか赤くなった。

「俺もキョーコちゃんでよかったよ。CMなんて初めてでどうしようかと思ってたんだ~」

「えっ!?CM初めてなんですか?」

「そうだよー。番宣とかはあるけど。でもそれも俺一人じゃなかったし。だいたい今更高校生役だなんて~」

「頑張って、“涼”。な~んて……ふふ」

「が、頑張るよ“桃”?」

「よう!もうすでに雰囲気作りか?えらく仲良さそうじゃねーか」

私と光さんが話しながら現場に行くと、黒崎監督が後ろから現れた。相変わらずワイルドにヒゲを生やしている。そしてやっぱり監督に見えない、ちょいワルどころか人身売買でもしているヤクザのような出で立ちだ。知らない人が見たら挨拶するどころか逃げていきそう。

そんな黒崎監督に若干驚きながらも、光さんがきちんと頭を下げた。

「おはようございます。黒崎監督」

「お、おはようございます!!監督。今日はよろしくお願いします!」

「おう!よろしくな!キョーコも前みたいに自然体で頼んだぜ!」」

ニッと笑う監督に私は笑顔で返した。けれど監督のその言葉でまた不安が襲ってきた。自然体……。自然体で恋を演じるなんて……。

私ちゃんと出来るの……?

“恋”なんて……。

私と光さんは簡単な打ち合わせの後、すぐに制服に着替えさせられ、今回の役、“桃”と“涼”になった。

光さんは気にしていたけれど、制服姿は似合っていた。

「学ランじゃなくブレザーなのがまだ救いだよなあ。これで学ランだったらコントだよ」

「そっちもきっと似合ってたわよ、涼」

「桃ひでぇ!」

都内の私立高校を借りての撮影は日曜の今日だけだ。つまり今日中に撮影し終えなければならない。いくつものシーンをカメラアングルを変えて何カットも撮影する。本当なら撮り直しなんてしていられない。でもやっぱりこだわり派の黒崎監督。時間がないのに納得できるまで同じシーンをやらされた。

はっきり言って、悩んでいる暇なんてない。それぐらい慌ただしい撮影だった。

特に大変だったのは二人で校舎内を疾走するシーンだ。

『競争しない?』

『競争?』

『負けた方はバツゲームだからね!』

『バツゲームぅ?』

『いくよ!よーい、ドン!』

放課後、教室から部室まで全力疾走するというシーン。教室、廊下、階段、色んな場所をアングルを変えて何パターンも撮影する。カットの声の度にエキストラの配置を変更したりして、小間切れで走らされているから距離としては長くない。けれどたとえ短い距離でも全力疾走はかなり体力を消耗する。

さすがに息が切れてきたと思った所でちょうど休憩を告げられた。そのとたん、隣の光さんがどっとその場に座りこむ。

「キョ、キョーコちゃん……た、体力あるなあ。俺…もう結構キツイや……」

ゼーゼーと肩で息をしている光さんにキュララを差し出した。

「いえ、私も辛いです。もう一回走れって言われてももう無理です」

笑って言うと、光さんも「もう一回は絶対無理。死ぬよ、マジで」と笑った。

なんだか光さんと話しているとほっとして穏やかな気分になれる。

こんな気持ちが淡い恋ならよかったのに。自然体で演じられるのに。

でもこれは恋じゃない。

これが恋ならよかったのに……。

そうしたら苦しまずに済んだのに。

やっぱり私って馬鹿な女ね……。

「大丈夫?もうちょっと休憩もらう?」

私が自分の思考に囚われていたら、光さんが心配そうに顔を覗きこんできた。

「い、いえ……大丈夫です」

「そう?でも顔色悪いよ?」

「ほんとに大丈夫ですから」

どうやら休憩終りの声が掛かっていたみたいだ。何の反応も示さない私に光さんが心配して声をかけてくれたらしい。優しく気遣ってくれてそれに楽しくて……なんかお兄ちゃんみたい。こんなお兄ちゃん、欲しいなあ……。

ダメダメ。

今日の私はこの人に恋する役。“お兄ちゃん”じゃダメなのに……。

「キョーコちゃん、汗かいてるからメイク直しいいですか?」

光さんがスタッフに言ってメイクさんを呼んでくれる。また暗い顔になった私に、光さんは上手くインターバルをおかせてくれた。

早く気持ちを切り替えないと。

そう……これは仕事。仕事なのよ!

あの人を目指しているのでしょう、キョーコ!

共演者を本気で惚れさせてしまうあの人みたいになりたいんなら、こんな所で立ち止まってなんていられないわ。

メイクを直してもらっている間に、恋しないと!

幼馴染みから友達以上恋人未満へ、そして恋人になったばかりの淡い、幼い、これからどんどん育って行く、そんな恋心。

「あの人への気持ちとは全然違うなあ」

「何か言った?」

「いいえ、何でもないです」

メイクさんにニコリと笑い返し、私は桃になって涼に恋する少女に気持ちを切り替えた。




『いっちばーん!はい、私の勝ち!』

部室まで走りきった桃は後ろを振り向き得意気にニッと笑った。

『ま、負けた~』

ゼーゼーと肩で息する涼はがっくり項垂れてそのまま倒れ込む。

『じゃ、罰ゲームだからね!』

『マジかよ~』

『目瞑って!』

『へ、変なことするなよ~』

『ほら、早く!』

素直に涼が目を瞑ると桃は座り込んだ涼の前に腰を下ろして顔を寄せる。顎に手をかけ、キスを迫るような雰囲気だ。

ドキドキ、ドキドキ。ドキドキ、ドキドキ。

これ以上ないほど唇が近付いたと思ったとたん、ふにっと押しあてられたものの感触にびっくりして涼は思わず目を開いてしまう。

『つっ!つっめてぇー!!』

叫び声をあげた涼に、桃はキャラキャラと笑い声をあげた。

『罰ゲームって言ったでしょ!』

ふふっと小悪魔のような微笑みを浮かべて桃は持っていたキュララを差し出した。

『半分こだからね』

『ケチくせーの!』

『私だって走ってのど渇いたんだもん!早く飲んで!』

桃に急かされ、涼は素直にキュララを飲んだ。

『美味しい?』

『ああ……』

『ふーん、じゃあ私も貰うね!』

ひょいと涼の手からキュララを奪うと、桃は飲み干し言った。

『間接キス……だね』

僅かに顔を紅く染め、ふわりと笑うと桃は空になったキュララのペットボトルの側面にキスをする。そしてそれを涼へと放り投げた。

『罰ゲーム!ゴミ箱に捨てておいて!』

桃はニコっと笑うと部室まで走っていった。

『間接キス……』

惚けていた涼は渡されたペットボトルを握り締め……キスをした。桃がキスをした同じ場所に。




「お疲れさん!いい絵が撮れたぜ!」

「黒崎監督、ありがとうございました!」

「お疲れ様でした!」

「涼の最後の表情は特によかったぞ!」

「は、はい!ありがとうございます!!」

撮影後、私と光さんが揃って挨拶に行くと監督が上機嫌に肩を叩いてきた。そして光さんの最後の表情を褒めた。

「いや……あれはキョーコちゃんに引き出して貰えただけで……」

「そんな…私こそです。なんか自然に振る舞えたっていうか……楽に演じられましたから。なんか光さんって頼りになるお兄ちゃんみたいです!」

私がそう言うと、なぜか光さんは固まってしまい、監督は盛大に吹き出した。

「ブーっ!!アハ……、アハハ……くくっ……いや、ハハハハ……」

「黒崎監督……?」

監督はひとしきり笑った後、光さんに耳打ちした。すると光さんはボンっと真っ赤になって監督から離れた。

「黒崎監督?光さん?どうしたんですか?」

「いや~走ってる時に、キョーコがパンチラしてたから、こいつも見たかと思ってな!」

ガハハと豪快に笑う監督はヒラヒラ手を振って帰っていった。

「パ、パンチラーっ!?ほんとですか、光さん!!」

私が近付くと光さんは慌てて私から離れてしまった。

「し、知らない知らない!わ、悪いけど…お、俺は帰るから!!」

そう叫んで光さんは逃げていった。

なんなのかしら?ほんとにもう!!

それにしても“淡い恋”上手く演じれたかしら……。

キスをしたいけど、恥ずかしい、でも好きだから。

そんな気持ちを表現したつもりだった。

“好き”かあ~。

あの人の顔が自然と思い浮かんで、私は頭を振った。

この気持ちは殺さなきゃ……。

あの人への気持ちは絶対に消さないと。

この気持ちは恋じゃない。恋じゃない。

私は恋なんてしない。

自分に暗示をかけ直し、私はセツになるためホテルへ向かった。





<後書き>
薔薇姫様のキリバンリクエストのボツバージョン。光はやっぱり「お友達」か「お兄ちゃん」止まりですよね(笑)。ちなみに私は『年の離れた優しい』お兄ちゃんなら欲しいです。間接キス…モー子さんが聞いたら憤死しそう。

「Adoption difficulties」
2015年03月15日 (日) | 編集 |
※注意:本誌最新話、act221まで未読の方はネタバレなので読まないことをオススメします。



「Adoption difficulties」





『金輪際連絡してこないように。早く誰かに養子縁組して貰うこと』

パスポートの同意書と共に添えられていた手紙には、短く冷たい言葉でそう書かれていた。

実にあの人らしい。

私にはもうなんの興味もないのだ。いやそもそも最初からなかった。

そんなこと、嫌というほどわかっていたはずなのに。少し期待した自分が愚かしい。

何年も会っていない娘を、勝手に出ていった娘を、行方知れずの娘を、普通の母親のように心配してくれる気持ちなんて、あの人に求めるだけ無駄だったのだ。

もう一切私に関わりたくない。そういうことだ。

そしてついこの間あの人がテレビで言っていたあの言葉――。

『私に子供はおりません』

あの人が私の存在を疎ましいと思ってるなんてこと、子供の頃からずっとわかっていたけれど。

ついに存在まで否定されてしまった……。

あの人に関することでもう傷ついたりしない。

そう思っていたのに……。

「ごめんね、コーン。また貴方に頼って」

がま口から出した小さな石を握りしめ、私は眠ることにした。

明日は元気になるから――。




グアムから帰ってからしばらくたったころ、私は社長に呼び出された。

私の恋心の話だろうか。それともまた別のミッションの話?

なんとかその日の仕事を終え、少しソワソワと落ち着かない気分のまま社長室に向かった。するとそこには何故かだるま屋の大将と女将さんが立っていた。

「大将!?女将さん!?どうしてここに?」

朝は何もおっしゃっていなかった。前日に聞いた私と違い急な呼び出しだったのだろうか。

「ちょっと前に話があるからと社長さんが連絡を下さっててね。昨日ようやく時間が取れたからこちらに来て下さいって連絡があって。本当はお店でしたかったらしいんだけど、社長さんも何かとお忙しいらしいからね」

話って何?一体何の話?

前からって。

それにどうして私に隠してたの?

女将さんの言葉にパニックを起こしていると、社長がマリアちゃんを連れて奥から現れた。

「お待たせして申し訳ない。最上くんにはもう?」

「いえ、まだ……」

訳もわからないまま呆然としている私を放置して、立ったまま女将さんが社長と話している。その隣で無口な大将はいつも通り無愛想な表情で黙って社長を見ていた。

そう言えば社長、今日はいつもの派手な格好と違って普通のスーツだわ。

そんなどうでもいいことに気が付いた。そんなことでも考えないと、言い知れぬ不安に押し潰されてしまいそうだったから。

「お姉様、心配しなくても大丈夫よ」

社長の隣にいたマリアちゃんがちょこちょこと私に近付くと、にっこりと笑って手を握ってくれる。温かいマリアちゃんの手にはっと我に返った。

私、そんな不安そうな顔していたの?顔には出していないつもりだったのに……女優失格ね。

マリアちゃんのお陰で少し落ち着いた。それでも不安は拭えない。この場から逃れたい。まだ何も聞いていないのに、どうして逃げ出したいって思うの?

話が一段落したのか、座るよう促される。ソファに座ると、向かいに座った社長が一枚の紙を示した。そこには見覚えのある字が書かれている。

「…………っ!」

「もちろん最上くんはこの字に見覚えがあるね」

見覚えも何も、あの手紙で久しぶりに見たばかりだ。あの人のもので間違いない。

「どうしてこれを…………」

「君の親権のことは実はパスポートを申請させる時から考えていた。君がまさか自分から母親に連絡を取るとは思っていなかったから、その時は言い出せなかったが……。先日正式に君をタレントとして所属させるために母親と連絡を取ったんだが、その時の返事がこれだ」

『私に子供はおりません。関わりのない者に一切興味はありませんので勝手になさって下さい。今後このような連絡が来ないよう早急に対応なさって下さいますように』

私への手紙より長いなとまるで他人事のように思っていると、隣の女将さんの手がわなわなと震えているのに気が付いた。女将さんが静かに怒っている。

「女将さん?」

私が声をかけると女将さんがはっとして私を見てにこりと笑った。

「それでだ。今後の活動をふまえても養子縁組は必要だ思う」

社長の言いたいことはよくわかる。私はまだ未成年で、成人するまでにはまだ数年かかる。これから芸能人として本格的に活動するには親の同意は必須だ。親の承諾が必要なこともたくさんある。

それをあの人から逐一承諾してもらう訳にはいかない。しかもご丁寧なことに私にも社長にもこんな手紙まで来ているのだ。もう一切関わりを持ちたくないという強い意志を感じる。

今までだってあの人の承諾が必要なことはあった。自分で書いたこともある。しかし正式にタレントとして活動するとなったらバレたらスキャンダルになりかねない種は摘んでおかなければならない。

「もちろん君さえよければだが……このまま母親の元にいる意味はないだろう……?」

社長の目が私を捕らえる。その真剣な眼差しに、手紙が着てからずっと燻っていた想いが溢れ出だ。

「はい……。私に来た手紙にも、養子縁組しろって書いてあったんです。正直やっぱりなって思ってました。ずっと母親が私のこと疎ましく思ってるのは知ってましたから……。だけど…だけど……言い出せなくて。こんな…こんな母親にも見捨てらるた私を……私なんかを養子にしてくれる人なんて……っ」

いないと言う前に大将さんが私の頬を叩いた。

「私なんかと言うな!母親一人ぐらいなんだ!お前にはお前を好いてくれるやつがたくさんいるだろう」

「そうよ。キョーコちゃんが大好きな人がたくさんいるわ。もちろん養子にしたいってくらい大好きな人がね」

「大将……女将さん…………」

女将さんが叩かれて赤くなった頬をすっと優しく撫でてくれる。

「キョーコちゃんさえよければ私達の娘になってくれないかい?」

「えっ……………?」

「先に言われてしまったが、私も君を娘にしたいと思っているぞ。何よりマリアも喜ぶ」

「ええ。お姉様が私のおば様になるのよ!素敵だわ」

「………………へっ?」

あまりのことに頭がついていかない。大将や女将さんのこともだけど社長が私の父親に?マリアちゃんが私の姪?

「以前から君を養子にとは考えていた。元々15歳以上なら普通養子縁組が認められている。この手紙で母親との関係はよくわかったからな。どうだ?パパでもダディと呼んでくれても構わないぞ、娘よ!」

真剣だった表情から一転、ニヤリと笑って社長は飛び込んでこいと言わんばかりに両腕を広げた。

「こ、困ります!!社長を父親だなんて………」

「じゃあ私達の娘で決まりだね」

「へっ……?お、女将さん……?」

「私達も前からキョーコちゃんを娘にしたいって思っていたんだよ。子供もいないからね。まあ娘みたいにはずっと思っていたんだけど。そんな時社長さんからこの話を聞いてね。この機会に調度いいと思ったんだよ。それに早いとこキョーコちゃんを娘にしないと他にも立候補されて取られたら嫌だからね」

フフフ、と女将さんがいたずらっ子のように笑う。

「そうだぞ。実はこの間クーからも申し出があったんだがな。君を娘にしたいと」

「えっ!?」

「それはいつか叶うだろうから待てって言っておいた。待ちきれないならあいつに発破をかけろともな」

「は?」

ニヤリと笑う社長の言葉は意味不明だった。

「まあヘタレなあいつの話は置いといて、最上くんには類稀なる才能がある。それを育ててみたいってのがたくさんいるのは本当だ。エルトラも興味津々だったからな。もしこの話をすれば絶対飛び付いてくるぞ」

社長の言葉に嘘はない。養子云々は別にしても才能があるという言葉は嬉しかった。正直自分に才能なんてある訳ないって思う。けど努力すれば手に入れられるんじゃないかなんて思ってしまう。

天から賜った、神の寵児であるあの人のようには到底ならないかもしれない。けどそこに少しでも近付けるようになりたい。

そのためにはやっぱり。

私は目を閉じて決心した。

「大将、女将さん。ふつつかものですが、私を娘にして下さい。よろしくお願いします」

目を開いて床に正座し、頭を下げて言った。

「キョーコちゃん、ありがとうね……」

大将は無言で頷き、女将さんは泣きながらそう言って私の手を取り抱き締めてくれた。

「女将さん……ありがとうございます」

そう言いながら泣いてしまった私に、大将が手拭いを出してくれる。

「フラれてしまったか……。まあ家庭裁判所の手続きは俺に任せておけ」

「社長、すみません。ありがとうございます」

「社長さん、ふつつかものですが、うちの娘をこれからもよろしくお願いします」

大将がそう言って深く頭を下げる。その隣で女将さんも静かに頭を下げた。

「大将……女将さん…………」

「これからは父さんと呼べ」

「そんな急に……」

「そうだよ、お前さん。急にはこっちも心の準備が出来てないよ」

「“父さん母さん”だ!“パパママ”なんてもんは認めん!」

仏頂面をしながらも大将の耳は少し赤くなっていた。

「はい、お父さん、お母さん」

私は溢れ出た涙を手拭いで拭き、泣きそうになりながら笑顔で言った。




実の母親とは縁がなかったけれど私には大好きな人達がいる。私を大切に思ってくれる両親がいる。血は繋がっていないけれど深い愛情をたくさん与えてくれる。

私は今心の底から幸せだと思う。

だから今日も頑張れる。私が大好きな人達のために。私を愛してくれる人達のために。そしてそんな人達が愛してくれる私のために。

新生キョーコ、今日も一生懸命頑張ります!





<後書き>
随分前からキョーコちゃんの親権についてネタを考えていました。グアムの前にちらっとヤバイのが投下され、プロットを考えているうちにあれよあれよとキョーコママとの話になったので辻褄を合わせるのが大変でした。これ以上展開が進む前に書き上げられてよかったー。




オマケ。



『なあぁにぃー!キョーコを養子にするだとー!!ズルいぞ、ボス!そんな話があるならわたしに真っ先に持ってきてくれていいだろうが!』

「お前うちの大事なホープを奪う気か!」

『けどボス!わたしはあの子にわたしのような父なら欲しかったと言われているし…それにすでに親子の縁を結んでいるんだ!』

「だからお前はすでに父親としての地位を確立してるだろうが」

『それはまあそうだが』

「それにいつかは本当に娘になるんだ。まあそれもあのヘタレ次第だが……。そんなに早く娘にしたいんだったらあいつに発破をかければいいだろうが!」

『それが出来たら苦労はしない』

「全くだな……」

『はあ……でもクオンとキョーコ、兄妹っていう関係も中々楽しそうなんだけどな。兄妹ケンカとかしてみろ。きっと天使たちがじゃれてるみたいに可愛いだろうなあ』

「そんなおかしな想像するな。勝手に兄妹にしてみろ、この間の非じゃないくらい怒り狂うぞ、きっと」

『ああ…まあ……想像できるな。恐ろしい』

「まあ法律上は兄妹でも結婚出来ない訳じゃないが心情的に問題あるだろう?素直に諦めろ」

『わかった……ボス、諦めるよ。でもボス、わたしの大事な娘だ。ちゃんとした両親に預けてくれよ』

「おい!俺はちゃんとしてねえってことかよ!しかも今預けてって言ったか、お前はどんだけ図々しいんだ!」

『ボスが父親は無理だろう?キョーコがボスを父さんと呼ぶなんて想像も出来ない』

「しかしうちにはマリアがいるからな」

『何にせよ、あの子が幸せになってくれるならいいさ何でもいいさ。そして将来的にクオンの嫁になってくれたらそれでいい』

「まあそうなるようまたあのヘタレをせっつきに来い」

ローリィは笑いながらそう言って電話を切った。国際電話の向こうの相手はきっと今頃愛する妻に内容を報告していることだろう。

それはキョーコが生まれ変わる少し前の夜のことだった。



上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。