花とゆめ連載「スキップ・ビート!」の感想&二次SS中心です。当サイトはリンクフリーです。
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☆「ラストワン~ほんのり甘い大人の微糖」
2015年08月26日 (水) | 編集 |
※注意
またまた腐な内容なので苦手な方はお読みにならないで下さい。

一応「ラストワン~ほろ苦い大人のブラック」から続くお話です。





「ラストワン~ほんのり甘い大人の微糖」





終業時間の終わったオフィスの休憩スペースで、赤いネクタイをした男がソファに凭れて休んでいた。よほど疲れているのか、目の上に濡らしたタオル地のハンカチを乗せている。

そこへエンジのネクタイを締めた男が、同じく疲れた様子で現れた。いつもはきっちり締めているネクタイを少し緩めている。男は自販機の前で立ち止まり、コインを入れた後何かに気付き手を止めた。

「……また売り切れか………」

ポツリと呟きがくりと肩を落とした。

その声に反応して赤いネクタイの男がハンカチを外す。誰かがいるのはわかったが彼だとは思わなかったのだ。

「お疲れ。何?どうしたの?」

「ああ……コーヒー……なくて」

ないとわかってより一層疲れが増したのか、エンジのネクタイの男は疲労感を露に答えた。はあとため息まで漏らす。

赤いネクタイの男は脇に置いていた缶コーヒーを左手で掲げ、右手を顔の前で立てた。プトップはすでに開いている。

「悪いね、これが最後の一本だったんだ」

「また?ズルい!!」

エンジのネクタイの男が思わず言い放つと、赤いネクタイの男はニヤリと笑ってそれを口にした。まだ残っているようだ。

その態度にエンジのネクタイの男は少し苛立って手を伸ばした。

「俺まだ仕事なんだけど」

だから寄越せと言外に匂わせれば、赤いネクタイの男もニヤリと笑う。

「俺もまだまだなんだ」

悪いね、と言ってまたぐびりと飲んだ。

エンジのネクタイの男はそれを見てムーと口を尖らせた。いつもならこんなことでここまで粘ったりしない。けれど今日は特別疲れていた。いつもより甘いコーヒーを求める程に。どうやってこの冷たい男を陥落させようか。しばらく考えてふと思い付いた。

「一口だけ……ダメかな?」

背を屈ませあざとく上目遣いをすれば、目の前の男はふうと息を吐いて笑った。仕方ないな、という仕草だ。

してやったり。エンジのネクタイの男は内心でガッツポーズをした。

「ん」

ちょーだいと缶コーヒーに手を伸ばせば、缶コーヒーではなく赤いネクタイの男の手を握らされる。

「………………?」

疑問に思っている目の前で残りのコーヒーを飲まれてしまった。

「あーっ!!!」

叫んだ瞬間にその手をぐいっと引っ張られ、体を引き寄せられる。そして眼前に赤いネクタイの男が迫ってきたと思ったら口を何かに塞がれた。キスされている。それに気付き、こんなところで……と焦っているとぬるりとした液体を口内に注ぎ込まれた。

芳ばしい香りと苦味とともにかすかに甘味を感じる。舌と芳醇なコーヒーの香りが口の中で暴れだす。

「~~~~~~っ!!」

息苦しそうにもがき、エンジのネクタイの男は赤いネクタイを引っ張り抗議した。そこでようやく解放される。

「長いんだよ、バカっ!!」

「いつもより甘く感じただろう?」

「…………ばか」

悪びれなくにんまりと笑う赤いネクタイの男に、エンジのネクタイの男は顔を赤らめ小さく呟いた。

「お前のおかげで疲れ取れたわ。よっしゃ!もうひとがんばりしますか!」

ニッと男らしい笑みを浮かべ、赤いネクタイの男はひょいと缶コーヒーをゴミ箱に投げた。しかしそれは入らずコロコロと床を転がっていき、エンジのネクタイの男の足に当たる。

「悪い!入れておいて。次はお前が最後の一本寄越せよ!もっと甘いの期待してるぜ~、じゃあな」

ヒラヒラと手を振り、彼は休憩スペースを出て行った。

「~~~~~っ/////」

一人残されたエンジのネクタイの男はへなへなと床に蹲った。その顔は真っ赤に染まっている。そして転がった缶を拾い上げた。

「どこが“ほんのり”なんだよ。かなり甘いじゃないか」

顔を赤らめたまま、缶に書かれた文言にぼそっと突っ込むその姿は、まるで乙女のようだった。

『譲れないほど美味い、ほんのり甘い大人の微糖』




【ネットおまけムービー】




最近あの二人を見ているとドキドキする。

左ポケットに入れたベージュのネクタイの上から心臓を手で押さえ、男は唸った。別に恋心を抱いているとか言う訳ではない。二人のキスを、いや、口移しのシーンを見てしまったせいだ。

それは数日前の出来事。休憩スペースでのことだった。ソファの陰で一部始終をこっそり見てしまったのだ。顔を赤く染めて蹲る男は、まるで乙女のよう。男はそう思った。そして自らも顔を赤らめた。何だかドキドキする。心臓が激しく鼓動しているのがわかった。秘密の会瀬を盗み見見てしまったせいか、それとも赤いネクタイの男の男らしい強引さにときめいたのか、エンジのネクタイの男の色気にやられたのか、自分の気持ちがわからない。

そしてエンジのネクタイの男が去った後、来たときと同じように別の意味でため息を吐いてその日は何とか帰ったのだ。

それからずっとこうだ。秘密の会瀬を盗み見見た焦りがそうさせているのだ。そう思いたい。

ベージュのネクタイを握り締め男はふうと息を吐いた。

「お疲れですね。どうかしました?」

隣に座っている後輩が声をかけてきた。何を隠そうこの男が口移しをしていた片割れである。正確には口移しをされていたというべきか。

「別に……」

まともに顔を見ることが出来ず、ベージュのネクタイの男は視線を反らした。

「…………」

二人の間に沈黙が訪れる。気不味くなったのか、エンジのネクタイの男は席を立ち部屋を出て行った。

「はあ~。どういう顔したらいいんだよう~」

ベージュのネクタイの男はガシガシと頭を掻いた。後輩の秘密の顔を知ってしまい、恥ずかしいというか、なんというか。

「普段は爽やかでかっこいいのに、なんであんな可愛くて色っぽいんだ……いやいやいや」

頭を振って自分の言葉を否定する。色っぽいなんてあり得ない。自分は女の子が好きなはずなのに……。

ベージュのネクタイの男はまた特大のため息を吐いた。

「あの……余計なお世話かもしれませんが、お疲れのようなので一度休憩して、これ飲みませんか?」

いつの間に戻ってきたのか、エンジのネクタイの男が缶コーヒーを差し出してきた。

あのコーヒーである。

「い、いらない!悪いけど今欲しくないから!お、俺顔洗ってくるよ!」

あの時の出来事が脳裏ををかすめ、ベージュのネクタイの男は慌てて断った。そして不自然な程急いで立ち上がり、そそくさと部屋を出て行った。

「………………」

受け取られなかった缶コーヒーを眺め、エンジのネクタイの男は首を傾げた。




その夜。

エンジのネクタイの男が休憩スペースで缶コーヒーを飲んでいると、赤いネクタイの男が声をかけてきた。

「お疲れ!今日はもう終わった?」

「いや……まだ……」

「そっか、そっちもか……って、あ!」

自販機の前で立ち止まり、赤いネクタイの男は声を上げた。

「何?どうしたの?」

「また売り切れなんだよ~」

「残念だったね。これが最後の一本だよ」

エンジのネクタイの男はニコリと笑って缶コーヒーを掲げた。

「もちろんくれるんだろう?」

「どうしようかなあ♪」

「頼むよ」

この間とは逆だなと思いながら、エンジのネクタイの男は笑い、後ろ向きになってコーヒーを口に含んだ。そして前に向き直るとちょいちょいと指を曲げて、赤いネクタイの男を呼び寄せる。

「何?くれるの?」

そう言って嬉しそうな表情で赤いネクタイの男がいそいそと寄ってきた。その赤いネクタイを掴み、ぐいと引き寄せる。そしてその勢いのままにエンジのネクタイの男は男の唇を奪うと、その口の中にコーヒーを流し込んだ。

「っ!!!!」

全てを移し終えてからエンジのネクタイの男は赤いネクタイの男を解放した。咄嗟のことに反応出来なかった赤いネクタイの男がぜーはーと肩で息を吐いて膝を着く。

「どう?前より甘かった?」

ニコリと爽やかな笑顔を浮かべ、エンジのネクタイの男が床に座り込んだ男に手を差し伸べる。引っ張り上げられて立ち上がった男の顔は真っ赤だ。その顔を見てエンジのネクタイの男はくすくす満足そうに笑う。

「じゃあね!お互い糖分補給出来たし、頑張ろうね♪」

ヒラヒラと手を振り、缶コーヒーをゴミ箱に投げ入れ、エンジのネクタイの男は上機嫌に休憩スペースを出て行った。去り際にとびきりの笑顔を浮かべて。

「~~~~~~//////」

赤いネクタイの男は更に赤く染まった顔を両手で覆い隠し、しばらくそこで硬直していた。




「やられたあぁ~~~!!」

「なんで俺までぇ~~~!!」

「……………………」

缶コーヒーの新しいCMの絵コンテを囲み、男二人が叫んだ。もちろん貴島と社である。その隣の蓮は無言で、何とも言えない表情を浮かべている。眉間に若干皺が刻まれているように見えるのは気のせいではないだろう。

「まあ社さんはネットだけですし、出番もそんなにないですし……」

貴島のマネージャーがそうフォローするが、社の顔は晴れない。だいたい出番の多さの問題ではなく、その内容の方が問題なのだ。

そして一方で俳優二人組はというと、どんよりと背後に重たい空気を背負っていた。

「これ……もうどっちがどっちって言うレベルじゃないよね……」

地の底まで落ちているかのような情けない声で貴島が呟く。

「この間の会話が聞かれていたんでしょうね」

でないといきなり口移しだなんて、あり得ない。普通公共に流れるCMで男同士のこんなシーンを作るか?一般の需要があるとは思えない。一体どんな層をターゲットにしているのだろうか。蓮ははあとため息を吐いた。

「ま、まあ……ドラマでも男同士のそういうのあるじゃないですか。その練習だと思えば……」

何の助けにもならないことを言う貴島のマネージャーを、三人は胡乱な瞳で見上げた。





<後書き>
終わっているようですが、まだこのネタはラスト一本あります。先に謝っておきます。社さん好きな方すみません。

この作品も
<ポーピーピー缶コーヒー販売所♪>に掲載させていただくためのものです。そちらには私めのより格段に面白い作品がそろっておりますのでぜひぜひお読みになって下さいね♪

リンク先
*『ポーピーピー缶コーヒー販売所♪』

またpopipi様のサイトも併せて。
*『popipiの妄想ブログ♪』
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☆「ラストワン~ほろ苦い大人のブラック」
2015年08月24日 (月) | 編集 |
※注意
腐な内容なので苦手な方はお読みにならないで下さい。





「ラストワン~ほろ苦い大人のブラック」





とあるオフィスの休憩スペース。青いネクタイを緩めた一人の男がソファのひじ掛けに腰をかけ、ぼんやり窓の外を見ていた。

そこへ疲れた表情ながらも紺色のネクタイをきっちり締めた男が現れた。その男は自販機の前で立ち止まり、ふうと一つ息を吐いた。

青いネクタイの男はそれに気付くと、軽く手を上げ声をかけた。

「だいぶ疲れてるなあ。何?今やっと休憩?」

時刻は既に午後9時。普通なら退社していてもいい時刻だ。

「ああ……」

紺色のネクタイの男は自販機を見つめたまま答えた。そして視線もそのままにしばらくそこで動きを停止させてしまった。

青いネクタイの男はその動きを不審に思い、そして自分の脚の間にある物に気付いてニヤリと笑う。そして自販機の前から微動だにしない男に、自分のそれを握って示した。

「これが欲しいんだろう?」

「別に……」

紺色のネクタイの男は青いネクタイの男の股間の物に気付くと、プイと目を反らした。が、すぐにそれに視線を戻してしまう。

「欲しいんだろう?素直になれよ」

青いネクタイの男はまるで挑発するようにそれを握ったまま掲げた。

「だから別にいらな……」

「だったらそんな物欲しそうな目で見るなよ」

「見てないよ」

そう言いつつも紺色のネクタイの男の視線は股間のそれから外れない。青いネクタイの男は面白そうに笑いながらそれを揺らした。

「……素直じゃないな~。まあそこも可愛いんだけど」

「うるさいな」

「欲しいんだろ?」

「欲しくない!」

紺色のネクタイの男は少し声を荒らげた。そう言いつつも青いネクタイの男の股間で揺れるそれに、ゴクリと喉が鳴る。額にはやんわりと汗が滲み出してきていた。

紺色のネクタイの男の脚は無意識なのか青いネクタイの男の方へゆっくりと近付いていっている。まるで吸い寄せられるように。

「我慢出来ないんだろう?こっちにこい。やるよ」

紺色のネクタイの男はフラフラと近寄りそれを手にした。そしてごくりごくりと一気に飲み干す。最後の一滴も残さないように。

『我慢出来ないほど美味い、ほろ苦い大人のブラック』




「これ、どっちがどっちなんですか?」

「そりゃあ俺がこの青のSっぽい方だろう?つーか俺は断然青がいい。監督は何て?」

「いえ、どっちでもいいらしいんですよ」

「俺は紺色のツンデレな敦賀くんが見たい!」

「う~ん、でも意外と蓮はSだけどな……」

「ちょっ……!社さん!何言ってるんですか!」

「まあでも180越えたでかい男が可愛いなんてあり得ないよなあ」

「そうでもないって!敦賀くん、ツンデレいけるって!可愛いって!」

敦賀蓮と貴島秀人、そしてそれぞれのマネージャーはとある缶コーヒーのCMの絵コンテを囲み、それぞれの役所を話し合っていた。しかしその内容について話す者は誰もいない。

これは突っ込んではいけない。突っ込んだら自分が下品な想像をしたと思われると考えたからだ。たとえこの絵コンテを描いた監督がそれを狙っていたとしても……。

四人は内心溜め息を吐いていた。

出来ればどちらもしたくない。

それが俳優二人の本音であることは間違いない。




【ネットおまけムービー】




「ああ~また売り切れかあ」

グレーのネクタイをした男が自販機の前でがくりと項垂れた。

「あ、すみません。最後の一本、俺達で飲んじゃいました」

紺色のネクタイをした男が空になった缶コーヒーを掲げて謝罪した。隣では青いネクタイを緩めた男が同じく頭を下げている。

「ていうか俺達って……」

「ああ、俺が最後の一本飲んでたらこいつが物欲しそうにしてたんで、残りをやったんですよ」

「別に物欲しそうになんてしてないだろ」

「してただろ?」

「してない!」

ニヤニヤと笑う青いネクタイの男に紺色のネクタイの男が食って掛かる。その様子はグレーのネクタイの男にはじゃれてる風にしか見えなかった。

(というか…それって間接キスなんじゃ……)

グレーのネクタイの男はじゃれあいながらコーヒーを飲ませあう二人の姿を想像して、なぜか顔を真っ赤に染めた。




「なんで俺まで……」

「ていうかこれ想像図までやらせるみたいですよ」

「マジか。間接キスかよ~~」

「口移しでなかったことだけが救いだな」

「二人とも。もうすでに本編CMの内容の方がヤバイんだ。かなりアレな感じだったんだし。諦めて下さい」

貴島のマネージャーは絵コンテを見て、項垂れている三人を見て慰めるように肩を叩いた。そして自分は巻き込まれなくてよかった、と心底安堵したのだとか。

しかしこの三人に更なる不幸が訪れることになるとは、さすがの彼も想像だにしていなかった。





<後書き>
プール熱で頭をやられてしまったからではなく、表日記さんのサーバーのpopipi様のサイトの販売所に触発されてやらかしてしまいました。なのでpopipi様に捧げます。突っ込みは一切受け付けません。

この作品は
<ポーピーピー缶コーヒー販売所♪>に掲載させていただくためのものです。そちらには私めのより格段に面白い作品がそろっておりますのでぜひぜひお読みになって下さいね♪

リンク先
*『ポーピーピー缶コーヒー販売所♪』

またpopipi様のサイトも併せて。
*『popipiの妄想ブログ♪』
☆「それはホントに夢かしら?奏江Ver」
2015年05月26日 (火) | 編集 |
「それはホントに夢かしら?奏江Ver」





今日は『水森都シリーズ』の台本を貰いに事務所に寄った。次の仕事までまだ時間もあることだし……そう思って台本に目を通そうといつも通り部室に入った……つもりだった。

正確には入って椅子に座って台本を開いたところまでは覚えている。

なのに私はいつの間にかどこかの庭らしきところに来ていた。目の前には綺麗に手入れされた芝生に小さな噴水、花壇にはたくさんの薔薇が咲き誇っている。

そして私はその広い庭の一角に置かれているカウチでうたた寝していたらしい。淡いピンクのブランケットが掛けられていた。

くるりと辺りを見渡し、ため息を吐いた。

広い庭には花壇だけでなく、温室のような物が見えるし、手前には薔薇のアーチ、その奥には畑まであった。また背後には白壁の大きな家が建っている。

いったいどこのお屋敷なのだろう。

そう、邸宅だ。一般的に家と呼ばれるようなものじゃない。御殿……いや、そんな日本的な感じじゃなくて、どちらかと言えば洋館風の建物だ。所々西洋のお城っぽい雰囲気もある。

社長のお宅……?

その可能性は高いと思ったが、社長のお宅に来る理由が思い付かない。そもそもなぜこんなところで寝ていたのか。今まで何をしていたのか。どうやってここに来たのか。全くもって思い出せない。

とりあえず誰かいないか、誰かいたら話を聞いてみよう。立ち上がり、私はその屋敷の入り口を探すことにした。

大きな窓越しに見えたのは淡い色で統一されただだっ広いリビングらしき部屋と、ピアノが置かれた部屋。二階以上の階には窓それぞれにバルコニーがついている。角を曲がればそちら側は窓がなかった。いや、上の方に横長の窓があるが、高すぎて覗くことは不可能だ。そしてまた曲がれば今度はウッドデッキが設置されている。その手前の庭には白いテーブルと椅子、バーベキューコンロ、石で出来た簡易キッチン、ピザが焼けそうな石窯まであった。

テーブルにはすでに料理が並べられているようで、いい匂いが漂ってくる。

「あっ!モー子さん!起きたの?ちょうどよかった。ご飯出来たから起こしに行こうと思ってたのよ」

匂いにつられてテーブルまで近付くと、ウッドデッキから皿を手にした女性が声をかけてきた。嬉しそうな表情を浮かべるその顔は誰かに似ている。それにこの声……。

「キョーコ…………?」

「モー子さん?どうしたの?ボーッとして…………。モー子さーん?」

呆然とその場に立ち竦む私を不審に思ったのか、キョーコに似た女性が近付いてきて私の目の前で手をヒラヒラと振る。髪は伸びているけれど顔立ちはキョーコに似ているし、言動もキョーコそのもの。なのにいつものキョーコより大人っぽくて、そして美人だ。体型も女性らしい丸みがある。

「キョーコ……なの?」

「モー子さん?ほんとにどうしたの?まだ寝惚けてるの?はっ!まさか、寝てる間に私のこと忘れちゃった?」

しょんなあ~と泣きそうな顔で情けない声をあげる、キョーコ似の大人キョーコ。私は思わず笑ってしまった。姿は大人なのに、どうもキョーコはキョーコのようだ。

「わ、忘れる訳ないでしょ!あんたのこと。ちょっと寝惚けてただけよ!」

そう言い返せば、大人キョーコは安心したように笑った。

どうやら夢を見ているらしい。それも何年後かはわからないが未来の。

「さてと……準備も出来たし……蓮音?大丈夫?持ってこれる?」

キョーコがウッドデッキの方を振り向けば、五、六歳ぐらいの女の子がよたよたと大きな籠を持って出てきた。肩までの黒髪をピンクのリボンで結んだ、可愛らしい女の子。キョーコには……あんまり似ていない。

「だいじょうぶ!ハスネ、ちゃんともてるよ、ママ!」

にこりと笑って、危なっかしい足取りで一生懸命籠を運ぶ女の子、蓮音ちゃんは、やっぱりキョーコの子供らしい。

「何でも手伝いたい年頃なの。だから出来そうなことをやらせてるのよ。まあ、失敗することもあるんだけどね」

くすりと微笑みながらキョーコは蓮音ちゃんを見守っている。慈愛に満ちた母親の顔をして。

無事蓮音ちゃんがテーブルまで籠を持ってくると、その中には様々な種類の、美味しそうなパンがたくさん入っていた。

「モーコおねえちゃん、すきなのどうぞー」

ニコニコと笑ってそう言われると、呼ばれた名前に文句を言うことも出来ない。

「こないだはピザにしたでしょ?だから今日はパンを焼いてみたの。この赤いのがにんじん入り、緑のがほうれん草。これがセサミ、バジル、小さいのがチーズボール。あとはクロワッサンとバターロール」

「これ……あんたが全部焼いたの?」

「ええ、そう。蓮音もパン生地捏ねたり、丸めたりとか色々手伝ってくれたのよねー」

「うん!モーコおねえちゃん、ハスネがまいたのたべてみて!このバターロールとチーズのは、ハスネがぜんぶまるめたんだよ!」

嬉しそうな顔で得意気に語る蓮音ちゃん。顔立ちはキョーコに似ていないけれど、こういう表情はそっくりだ。

「じゃあせっかくだから、蓮音ちゃんが丸めてくれたこのチーズボールとバターロールを貰おうかしら」

「はーい♪どうぞー」

トングを使って蓮音ちゃんが器用にパンを皿に盛り付けてくれる。テーブルには他にも彩りも鮮やかなサラダ、冷製スープ、美味しそうな匂いのベーコン、フルーツが並べられていた。

「パパー?まだあ?もうたべちゃうよー」

「ダメ。やっぱり起きないから連れて行くよ」

蓮音ちゃんが二階に向かって呼び掛けると、そう返事が来た。

この声は……。もしかして…もしかして……。

「遅くなってごめん。琴南さんもお待たせ」

そう言って現れたのはやはり敦賀さんだった。少し老け…いや、年を重ねて、更に男の色気が増している気がする。腕の中に赤ん坊を抱っこしている姿は所謂“イクメン”そのものだ。

「やっぱり起きなかったかあ。蓮さん、ありがとう。嘉月、私が抱くわ。蓮さんは先に食べて」

「俺は後でいいよ。キョーコ先に食べて。もし嘉月が起きたらキョーコは食べられないんだから」

何だかもう夫婦って雰囲気だ。ラブラブ感が目に痛い。嘉月というのは赤ん坊のことだろう。

眠っているからはっきりはわからないが、キョーコに似ている気がする。

赤ん坊の月齢には詳しくないけれど、まだ一歳になっていないように見える。青い熊のキャラクターに水色のストライプの服。男の子かしら……?

じっと嘉月……くんを見ていると、蓮音ちゃんがにこにこ笑って教えてくれた。

「カヅキはママからしかごはんたべないんだよ。ワガママだよねー。いつもママにべったりであまえんぼうさんなの。きっとそのうちママをオヨメさんにするっていうよー」

「それはダメ!絶体許しません。ママはパパのお嫁さんだから嘉月にだって渡しません」

子供の無邪気な発言にも大人気ない発言を漏らす男。私は内心呆れた。

相変わらず独占欲が強いというか心が狭いというか。結婚しているみたいなのに……。キョーコも苦労するわね。

「蓮音、嘉月はまだ赤ちゃんなんだから甘えて当たり前よ。全然ワガママじゃないわ。それにあなたもそうだったんだから。ほら、あなたも欲しいパン取りなさい。早く食べましょう。蓮さん、モー子さんの前で恥ずかしいこと言わないで!」

「だってーっ。ハスネやパパからじゃぜったいたべないじゃない。しゃちょうさんもわらってたし……パパみたいだって」

「なっ……!俺みたい?なんで……」

「だってパパ、ママのテリョウリじゃないとたべないじゃん。おべんとうもママのじゃないとたべないし。オトナなのにワガママなんだからー」

「蓮音、パパをワガママだなんて酷いな。パパは別にママのじゃないと食べない訳じゃないよ。食べるの忘れちゃうだけで……」

後半声が小さくなった気がするのは……うん、突っ込まないでいてあげよう。

それにしても敦賀さん……キョーコがいないとほんとダメね。お弁当作って貰うとか……キョーコだって忙しいのわかってないのかしら。体が資本の俳優なのに、ご飯食べるの忘れちゃうとか……あり得ないわ。

そんなことを思いながら野菜ジュースらしき物に手を伸ばした。

「あっ!モー子さん、それは蓮さんが作った……」

キョーコがそう言い切る前にそれを口に含んでしまった。強烈な不味さが脳天を突き抜ける。野菜……?いや、なんか生臭い?

ああ、ダメだ。あまりの衝撃的な味に意識が遠くなる。




気付けば部室のテーブルに突っ伏していた。

「あれ……っ?」

私……何してたんだっけ?

パサリと何かが床に落ちる音がした。下を見ると台本が落ちている。

拾い上げれば、『水森都シリーズ』の台本だった。

ああ、そうだった。台本読んでたんだった。ということはさっきのはやっぱり夢……。

それにしても……。

私はキョーコの未来を思って心配になった。キョーコの気持ちはどうだか知らないが、あの男は絶体キョーコのことが好きだ。ということはあれが現実になる可能性も少なくない。

思わずため息をが出た。

あの独占欲の強い男はキョーコのことを雁字搦めにしそうだ。夢とはいえ、半分事実が混じっているので笑えない。

次の仕事に向かおうと部室を出れば、ちょうどキョーコがやって来た。

「モー子さあん!いや~ん、もういっちゃうのお?」

寂しいと飛びかかってきたキョーコをかわし、私は振り向いて言った。

「あんたも苦労するわね……。ほんとに嫌だったら全力で逃げなさい。嫌じゃないならきちんと教育なさい。甘やかしちゃダメよ」

言わずにはいられなかった。

キョーコは私の言葉に首を傾げていたが、私は仕事もあることだし、キョーコをそのままにして事務所を出た。

ごめんね、キョーコ。

今私に言えるのはこれだけよ。





<後書き>
ようやく出来たひなた様のバースデーリクエスト。毎度ながら遅れて申し訳ないです。しかし夢シリーズのモー子さん編がこんなに難しいとは!社さん編と同じくらい悩みました。いや、社さんより悩んだかも。モー子さんは好きだからこそ書けません。すみません。
☆「それはホントに夢かしら?マリアVer」
2015年05月26日 (火) | 編集 |
「それはホントに夢かしら?マリアVer」





蓮様と結婚できないなんてこと、きっとほんとはどこかでわかってた。

蓮様が私のこと、恋人として見てくれることなんて一生ないことも。

蓮様に私が相応しくないことも。

蓮様の幸せそうな顔を見た時からずっと、誰がその視線の先にいるのか知っていた。

蓮様をそんな笑顔にさせられるのは私じゃない。私じゃ出来ない。

あの人だから。あの人だからこそ蓮様に本当の笑顔を与えてあげられる。あの人になら蓮様を奪われても構わない。

ううん。最初から私のモノじゃないのだから、奪われるも何もない。

けれど下手な女に蓮様は相応しくない。私には無理でも、せめて蓮様の隣に立つのに遜色のない女性が現れるまで私が排除してあげるのよ。ずっとそう思っていた。

あの人が現れるまでは。

蓮様の隣に立つ女性。これがどこぞのバカな女なら許せなかった。あの人だから許せた。あの人だからこそ許せたのだ。

蓮様があの人を見て幸せそうに笑う。

ああ、蓮様があの人を選んでくれてよかった。

私の尊敬する大好きなお姉様を選んでくれて、本当によかった。




幸せそうに赤ちゃんを抱くお姉様を見ながら、私はそんなことを思い出した。

蓮様とお姉様が結婚されてから七年。お二人は三人のお子様に恵まれ、幸せそうにしていらっしゃる。いつも新婚のようにラブラブで、いつ見ても蓮様は幸せそうに笑っている。

今日はお二人の家に遊びに来ていた。生憎蓮様は仕事でいらっしゃらないが、育児休暇中のお姉様と、お二人の三人目のお子様、花音(カノン)ちゃんとの時間を満喫させていただいている。

出産直後に会ったっきり、色々あって花音ちゃんとは会えていなかったから、嬉しくてたまらない。花音ちゃんの小さな手を握ってあげるとにっこりと笑ってくれた。

「可愛い!!花音ちゃんはやっぱりお姉様に似ていらっしゃいますわね。蓮様、メロメロになっていそうですわ」

「そうなの。もう大変よ。帰ってきたらまず真っ先にキスしにくるの。それもほっぺただけじゃなく顔中。朝も中々離れたがらないし」

その光景が目に浮かび、私はクスリと笑った。

まだ6ヶ月の娘にキスをしまくる蓮様なんて、昔は想像も出来なかった。蓮様がまさかイクメンで、子煩悩を通り越してこんなにも暑苦しいパパになるだなんて。そんなこと思ってもみなかった。どんなに仕事で忙しくても家に帰れば率先して育児をこなす。いや、むしろ嬉々とやっているように見える。まあこれもお姉様への愛のなせる業よね。

花音ちゃんをあやしながらそんなことを考えていたら、ガチャリと玄関の開く音がした。

「ママーっ!!マリアちゃん、まだいるー?」

元気な声と廊下をパタパタと走る音が聞こえてきた。未来の私の旦那様が幼稚園から帰ってきたのだ。

私は座り直してスカートを直し、手で髪を整えた。

「こらっ!紫音(シオン)!先にただいまでしょう!あと廊下は走らない!」

嬉しそうな顔でリビングに入ってきた男の子は、お姉様に叱られるとはーい、と返事をして、素直に「ただいま」と言った。

現在幼稚園に通う、もうすぐ六歳になる男の子。蓮様とお姉様の一番上の子供にして、私が将来旦那様にしようとあの手この手で画策している、蓮様そっくりの紫音くん。

確実にいい男に育ちそうな容姿はもちろんのこと、頭の回転も、そして当然性格もいい。難を言えばそのせいで幼稚園でもかなりモテているらしいことだ。当たり前のように、みんなにちやほやされているのも気に入らない。蓮様に似てフェミニストなところもいただけない。

けれど小さい頃から刷り込みしたおかげか、「マリアちゃんがだいすき!ぜったいオヨメさんにする」と言ってくれている。ちなみに最初は「マリアおねーちゃん」と呼ばれていたけれど「マリアちゃん」に変えさせた。だって結婚相手に「おねーちゃん」呼ばわりは有り得ない。

「お帰り、紫音。今日は幼稚園どうだった?楽しかった?」

「うん!でもマリアちゃんとあそぶほうがもっとたのしいもん!だからはしってかえってきちゃった!!」

その言葉を聞いて私はニヤリとした。洗脳は順調だ。あと12年。そうすれば結婚できる。

「そうだ!マリアちゃん、ケーキ食べない?昨日焼いたのよ」

「ぼくもてつだったんだよ!」

紫音くんが嬉しそうに言う。褒めて、褒めて、と尻尾を振っているのが見える。

可愛い。こんなに可愛い生き物がいていいのかしら。

「紫音くんも手伝ったの?偉いわね」

「そうなの。生クリーム泡立ててくれて、デコレーションまでしてくれたの。それも一人で。それがまた上手に出来たのよ」

私とお姉様、二人に褒められて紫音くんは満面の笑みを浮かべた。

お姉様がケーキとお茶の用意をしてくれている間に花音ちゃんをベビーベッドで寝かせていると、またガチャガチャと音がして、玄関の扉がバンと開いた。

「ただいまー!!マリアおねーさまー!!」

開くと同時に大きな声で叫ばれて、私は笑いそうになった。

この声は花梨(カリン)ちゃんだ。お二人の真ん中のお子様でまだ四歳なのに、すでにモデルや子役として活躍している。さすがにお二人のお子様だけあって感もよく、演技も凄いと評判だ。

今日も幼稚園の後撮影だったらしい。それにしてはやけに早い。

「お帰り、花梨。撮影はもう終わったの?」

私の心の声を代弁したかのようにお姉様が花梨ちゃんに訊ねる。すると花梨ちゃんは得意気な顔で言った。

「マリアおねーさまにはやくあいたくて、すっごくがんばったの。わたしのシーンはとりなおしいっかいもしてないわ。ほかのとこもわたしのおかげでだいぶマイタ?っていってたよ?」

すごいでしょ、と得意気に話す花梨ちゃんに、私とお姉様は思わず顔を見合せた。

さすが蛙の子は蛙。確実にお二人の子ですわね。というか周りを巻き込むところは蓮様似ね。私に早く会いたくて撮影を巻くなんて……末恐ろしい。まあこれだけ慕われているのは嬉しいけれど。

「花梨お嬢様、ご自分の荷物ぐらいお持ち下さい」

花梨ちゃんの所業におののいていると、開けっ放しになっていた玄関からセバスチャンが鞄を持って入ってきた。セバスチャンは今、運転手兼マネージャーとして花梨ちゃんについている。

「セバスチャンさん、すみません。花梨ったらもう!!」

お姉様は花梨ちゃんを正座させ、お説教を始めた。その間に私と紫音くん、セバスチャンはケーキを食べることにした。

紫音くんがデコレーションしたというケーキは本当に綺麗に飾られていて、生クリームの花は見事としか言いようがない。

「これ、本当に紫音くんが全部デコレーションしたの?」

「そうだよ。まえにママがつくってくれたのマネしてみた」

「本当に綺麗ですね。お店で並んでいてもおかしくないですよ」

セバスチャンまでも絶賛する。それぐらい綺麗だったのだ。

一口頬張れば生クリームの甘い味にうっとりさせられる。しつこくなく、絶妙な甘さで、いくらでも食べられそうだ。

「おいしい?」

「ええ、とっても。紫音くんは天才ね!!」

「えへへっ。うれしいな。マリアちゃんがくるってきいたからがんばったんだ」

はにかみながら言う紫音くんにノックアウトされて、私はふらりと倒れそうになった。

なんて!!なんて可愛い生き物なのかしら!!!

容姿は蓮様に似て最上級、そしてお姉様に似たこの完璧な料理の腕。

やっぱりこんなお買い得な物件ないわ!!

「あ、マリアちゃん……」

「何?」

「ついてるよ……」

そういって頬をペロリと舐められた。

ボン!!

頭の上から音がして顔が爆発する。そして今度こそ心臓を撃ち抜かれて、私は倒れた。




気が付くと、私はグレイトフルパーティーの会場にいた。どうやら会場の隅に置いてあるソファーベッドでうたた寝してしまったらしい。

もうすぐ日付を越えようとしている。

去年は出来なかったけれど、今年はまたお姉様とパーティーを企画し、開催することが出来た。

さっき蓮様から誕生日プレゼントを貰った。お姉様からはパーティーの始まる少し前に貰っている。ソファーベッドにはそれらがきちんと置かれていた。

お二人にお祝いをして貰えて、今年も幸せだ。誕生日を大好きな人達と一緒に過ごせて、お祝いして貰えて、こんなに嬉しいプレゼントはない。

もちろんパパも忙しいのに着てくれた。今はトラおじ様と談笑している。そのすぐ近くでは蓮様が何か召し上がっていらっしゃった。

「やあ、マリアちゃん、もう起きたんだ?」

私が近付いていくと、蓮様がにこりと微笑んでくれた。

「ええ。もうすぐお姉様の番ですもの。寝てなんていられませんわ。ところで蓮様?何を召し上がってらっしゃるの?」

どうもパーティーメニューにはない物を召し上がってらっしゃるように見える。焼いた卵の上に赤い色で8?と書かれている気がする。オムレツかしら?

「ああ、オムライスだよ。ちょっと勇気を貰いたくて、最上さんに無理言って作って貰ったんだ」

お姉様が特別に……蓮様のために特別に……。それに勇気を貰うって…………。

ふう~ん。

「ねえ、蓮様。そのオムライスの力で勇気を出して頑張って告白して下さいませ。そして早くお姉様と結婚して子供を作って下さいね。私もさすがに一回り以上年が離れているのは嫌ですもの」

「………………へっ?」

私がそう言うと、ポカンと口を開けた蓮様は、食べていたお姉様特製のオムライスを喉に詰まらせ咳き込んだ。ゲホゲホ、ゴホゴホと息を吐き出し、私の差し出したお水を勢いよく飲み干した。

蓮様がこんなに動揺したの見たことない。

紅くなった蓮様、ちょっと可愛いわ。

蓮様の新しい一面を見れて、私はウキウキとした気分でお姉様に近寄っていった。

お姉様にも早く蓮様の気持ちに気付いて落ちていただかないとね。

「お姉様ーっ!!」

私が呼ぶとお姉様がにこりと笑ってくれた。

大好きなお二人のためにも、そして私のためにも、頑張ろうっと。





<後書き>
蘭子ちゃまからのバースデーリクエスト。夢シリーズマリアちゃんバージョン。このシリーズで書いてて一番楽しかったです。お題を全部消化できているでしょうか。でもお題がある分書きやすかったです。お題「夢シリーズをマリアちゃんで。そしてマリアが蓮キョの息子を青田買い。マリアは息子にメロメロ。最後は一回り以上離れたくないマリアが蓮に発破をかける」でした。蘭子ちゃまが想像していたような話になったでしょうか。ドキドキ。
☆「それはホントに夢かしら?蓮VerS様仕様」
2015年05月26日 (火) | 編集 |
「それはホントに夢かしら?蓮VerS様仕様」





「カレン、パパにもうチョコあげないからね!」

バレンタイン前日の夕方、可愛い、可愛い、愛しの娘から言われた言葉に俺はショックを受けた。あまりのショックに思わず床に座り込んでしまう。

「ど、どうして?どうしてパパにくれないの?」

泣きそうになりながら聞くと、可愛い娘は、これまた可愛い顔で酷い言葉を告げた。

「これからはちゃんとすきなヒトにあげるの!」

「カレンちゃんっ!!もうパパのこと好きじゃないの!?パパ、こんなにもカレンちゃんのこと愛してるのに~!!」

あんなに俺のこと好き好きと言ってくれていたのに、しかも数日前の俺の誕生日には「パパにプレゼント」と言って頬にチュッとしてくれたのに、この変わり様はあんまりだ。可愛い愛しの娘は俺を捨てるのか。あまりにも俺が悲愴な顔をしていたからか、隣で聞いていた右京が助け船を出してくれる。

「カレン?あんまりつめたいとパパがかわいそうだよ?パパにもあげたら?」

「そうよ、カレン。毎年パパにもあげていたでしょう?1つ作るのも2つ作るのも一緒よ?」

「いや!カレンはフタマタなんかしないの!カレンのチョコはコナンくんだけにあげるんだもん!カレン、パパよりコナンくんがすき。だーいすき」

頑ななカレンに、キョーコがやれやれ、と言った感じで俺を見た。二股とか随分おませさんね、なんて言って笑っている。

しかしそれより何より、今聞き捨てならないことを聞いたような気がする。俺はがばりと起き上がり、キョーコに詰め寄った。

「コナンくんって誰!?キョーコ、知ってる?」

「ああ、えっと……右京のお友達で江戸川コナンくんって言うの。大人びてるというかちょっと不思議な雰囲気の子よね~」

「そこがいいのよ、ママ!ミステリアスでオンナノコにもクールなとこがいいわ!カレン、ぜったいコナンくんのおヨメさんになるんだあ」

あの頃のキョーコによく似た顔で、不破に想いを寄せていたキョーコの表情のまま、カレンが嬉しそうに話す。俺はそれにメラメラと嫉妬の炎を燃やした。

「絶対に許しません!カレンちゃんはお嫁になんていかなくていい!」

「はあ?クオンったら何言ってるの!?」

「じゃあカレンがすぐにお嫁にいってもいいの?キョーコはカレンが可愛くないの!?」

「それとこれとは別問題よ」

「パパ、キモい!ウザイ!もうあっちいって!!」

「カレンちゃん、酷い!パパ泣いちゃう!」

「それはさすがにキモいよ、パパ」

呆れたように見る右京に本当に涙が出そうになる。

「右京まで!キョーコぉ~、子供達がキモいって」

「そうね。ちょっと酷いわね」

「キョーコっ!!やっぱりキョーコは俺の味方だ……」

よね、と続けて抱き着こうとしたら、するりとかわされた。

「ほんと、こんな酷いパパ、気持ち悪いからほっときましょ!」

「キョーコオォ~」

「情けない声出さないの!いつまでもそんなだったら、私からもチョコレートあげないわよ!」

キョーコに伝家の宝刀出されて俺は黙るしかない。それでも可愛いカレンが俺の知らない男に骨抜きになっているのは許せなかった。かといってカレンやキョーコに嫌われたくはない。

闇討ちするしかないか……。

「コナンをヤミウチしようとしてもムダだよ、パパ」

俺の心を読んだかのように右京が耳打ちする。

「どうして?」

「アイツスゴイから。カエリウチにされるだけだと思うよ」

どういう意味だろう。俺がたかが子供に返り討ちにされる?そんな訳ないだろう?俺が強いの知っているくせに……。

「パパはたしかにつよいよ。けどコナンはすごく口がたつから、せいしんてきにまずおいつめられるし、なんかはつめいしてるおじいさんがいて、いろいろグッズがあるみたいだから、すでじゃないけどこうげきりょくははんぱないみたい。それに……そんなことして、もし二人にバレたら……」

嫌われちゃうよ、と右京がにっこりと天使のような顔で微笑んだ。何故か頭に角が見えるような気がするが……。

「それにシンパイしなくてもダイジョウブだよ?コナン、ちいさいころからずっとすきなヒトいるらしいから」

「小さい頃から?右京と同い年だろう?」

「うん、そう。だからおさななじみかなにかで、ずっとその子がすきなんじゃない?スゴイいちずだよね。だからカレンのこと、おヨメさんにはしてくれないとおもうよ」

右京が語る小学生の一途な想いに、俺は少しコナンという子供に興味を持った。この感じならカレンの恋人になる危険分子ではないと判断したからだ。カレンの恋人になるような危険分子は早いうちに滅殺しておかなくてはならない。ましてや結婚相手だなんて考えたくもない。

「まあ…コナンはほかの子からもモテるから、カレンはなくだろうけど……」

それを聞いて、やはりコナンというガキも抹殺対象に復活させた。どんな理由であれ、可愛いカレンを泣かせる者は許せない。

とりあえず明日小学校に潜入するか……。

「あ、がっこうにきたらママにいうからね。ママにきらわれてもいいの?まあそんなバカなこと、パパはしないよね……?」

フフフ、と笑う顔はまるで悪魔のようだった。未緒のようなナツのような微笑み。確実にキョーコの子だ……。

がっくりと項垂れる俺の背後で、愛しい妻と娘が楽しそうにチョコレート作りに励んでいる。

あんなに「カレン、パパのおヨメさんになる!」って言ってくれていたのに。

まさかもうチョコレートを貰えなくなるなんて……。

しかし俺は知らなかった。

キョーコからのチョコレートすら貰えなくなる日が来ることを……。

キョーコと永遠に別れなくてはいけなくなることを。

この時の俺は想像もしていなかった。




「って!そんなことあってたまるかーっ!!」

自分の絶叫で目が覚めた。傍らにはいつもの安眠枕が……ない。

モコモコの羊の行方を探せば、ソファの向こう側に落ちていた。

このせいか……?

あんな悪夢を見たのは。

それとも最近忙し過ぎて家族サービスが疎かになっていたせいか?

「蓮?起きてるか?」

楽屋のドアが開いて社さんが顔を見せた。

「ええ、起きてます。それより早急に休みを下さい!」

「は…………?」

「キョーコに離婚されるーーっ!!」

「まだ寝惚けてるのか?」

呆れたような社さんの目が、夢で見た右京の目と重なった。

「右京、カレン!パパを嫌わないでくれーっ!!」

涙目で訴える俺に、社さんは顔面を蒼白にさせどこかに電話をかけた。

「社長!蓮がおかしいんです!なんか意味不明なこと叫んでて、錯乱してるみたいなんです!!今すぐ休みを下さい!!あとキョーコちゃんを大至急呼んで下さい!!」

俺がおかしい?錯乱してる?そうなのか?まあとりあえずキョーコに会える。キョーコに会えるならおかしくなっても構わない。

キョーコ……早く会いたいな。

娘に嫌われてもキョーコ、君にだけは絶対嫌われたくない。君のことだけは何があってもずっと、未来永劫、離さない。





<後書き>
今年はなくても言いと言われたのに、短いのだけでも書くからとリクエストを頼み、そのつもりだったのに意外と長くなりました。コナンのくだりのせいでしょうか?
サリーちゃんのバースデーリクエスト。「それはほんとに夢かしら?蓮ver」設定をそのままで好きな人が出来たカレン。相手に嫉妬し、子供達にキモがられ、落ち込む蓮だそうです。スペシャルゲストは名前だけですがコナンくん。最初は小林輪でしたが本人に名前は知ってるけどよくわからない様子だったので急遽コナンくんに。季節ハズレでごめんなさい。
☆「それはホントに夢かしら?社Ver」
2015年05月26日 (火) | 編集 |
「それはホントに夢かしら?社Ver」





久しぶりに風邪をひいてしまった。キョーコちゃんに蓮の代マネをやってもらって以来だ。

体調を崩している自覚はあったのに、カインの仕事が終わってからずっと、それまで抑えていた皺寄せか、忙しくて休みという休みが取れなかった。そのせいで余計に悪化させてしまったようだ。

昨日はなんとか自宅に帰ったものの、あまりの辛さに着替えることもできず、そのまま床で寝てしまった。そのせいかますます体が痛い。指一本を動かすことでさえ億劫で這うことも出来ない。

せめて松島主任に電話しないと……と思っても体は言うことを聞いてくれない。ちなみに携帯は鞄の中で、その鞄はというと、遥かかなたの玄関にある。とてもじゃないがあそこまで辿り着けそうにない。

そんな状況に俺は焦っていた。

ぜえぜえ、はあはあと息を吐きながらもがいているうちに再び意識を失った。




人の話す声と美味しそうな匂いにふいに目が覚めた。けれど目蓋が重く、目を開けることが出来ない。

「琴美も奏多も大人しくしているのよ。社さんはご病気なんだからね」

「そんなことわかってるわ、ママ」

「きょうはヤシロのおじちゃんのおみまいにきたんだもん」

どこかで聞いたことのあるような、でもどこか少し違うような女性の声と、可愛らしい子供の声が二つ。俺の寝ているすぐ近くでした。

一瞬隣の部屋かと思ったけどそれにしてもあまりに近すぎた。おまけにすぐそこに人の気配がする。

誰だ………?まさか泥棒?

子連れの泥棒なんてあり得ないのに、熱で正常な判断が出来なくなっていた俺は目を閉じたまま携帯に手を伸ばす。

「あ、ママ!ヤシロのおじちゃんうごいたよ!」

嬉しそうな声がしたと思ったら、パタパタと足音がしてそれがどんどん近付いてくる。

「カナったらはしっちゃダメでしょ!」

「でも…おねえちゃんだってさっきはしってたじゃない」

「わたしはいいのよ。おへやのそとだったし、それにカナみたいに大きなおとをたてたわけじゃないもの」

得意気に話す少女の声が可愛くてふいに笑いが込み上げる。

これは泥棒じゃないな…なんて思いながらゆっくり目蓋を上げれば、視界に俺をじっと見下ろす四つの瞳が入ってきた。

「ヤシロのおじちゃんだいじょうぶ?おきた?あたまいたい?」

「おはよう、社のおじさん。カゼひいたってきいたからおみまいにきたのよ!」

可愛らしい二人の子供が我先にと枕元で話しかけてくる。小学校低学年ぐらいの女の子とそれより少し小さい男の子。溌剌とした瞳が印象的だ。

誰…………?

見覚えのない子供がなぜ自分の枕元にいるのか。おじさんと呼ばれるからにはそれなりの知り合いなのだろうが、生憎と全く記憶にない子供達だ。蓮が共演した子役?それとも事務所の誰かの子供?いずれにしても家まで上げるような仲の子供なんていないはずなのに……。

俺が戸惑っているのにも気付かず、二人は楽しそうに俺の上で話している。何を話しているのか、俺に話しているのか、二人だけで話しているのかすらわからない。それぐらい動揺していた。

「ママ!社のおじさんおきたよ!はやくきてー」

一頻りしゃべると女の子が立ち上がって誰かに声をかけた。

忘れていたが、そういえばもう一人女性がいたんだった。

俺はむくりと起き上がると、ようやく辺りを見回した。

床で寝ていたはずなのに、俺の体はいつの間にか布団の中にあった。確かに俺の部屋なのに微妙に雰囲気がいつもと違う気がする。いつも開けっ放しにしているリビングと寝室のドアが半分閉められているせいだろうか……。

むくりと起き上がれば、暗かった部屋が急に明るくなった。女の子がドアを全開にしてくれたらしい。

「ムリしておきちゃダメ!すぐママがごはんもってくるからまだねてて!」

起きた俺に気付くと、女の子はめっと注意してまた寝かせようとしてくる。

「も、もう大丈夫だから……」

そう言っても聞いてくれず、強引に布団を被せ、その上に乗り上げてきた。

可愛いらしくも利発そうな顔立ちにその表情……誰かに似ている。誰だ……?

考えようと目を閉じたら、リビングから誰かが入ってくる気配がした。

「ママ!ごはんできた?」

「あっためるだけだから、できたにきまってるでしょ?カナったらばかなんだから」

「バカじゃないもん。おねえちゃんのイジワル!!」

「こらっ!静かにしてなさい。社さん、大丈夫ですか?蓮さんから昨日辛そうだったと聞いてきたんですが……」

聞き覚えのある声に目を開ければ……。

「キョ、キョーコちゃん……?」

目の前にはキョーコちゃんがいた。いや、正確にはキョーコちゃんよりナツを彷彿とさせる大人の女性……より綺麗になった未来のキョーコちゃんが大人っぽい服装で立っていた。

「すみません、ご迷惑かと思ったんですが社長さんから合鍵を借りて勝手に入ってしまいました。電話をおかけしたんですがお出にならなかったので、もしかして倒れておられるのかなと……」

申し訳なさそうに頭を下げる大人キョーコちゃんに、俺は違う意味でも焦ってきた。正座して下を向かれると谷間が見えるのだ!ただでさえ少し胸元の開いたデザインだからか、キョーコちゃんの胸が大きくなっているからか、そこにばかり目がいってしまいそうになるのに。

これは拷問か?連絡もせず休んだ罰か?

「ご飯の前に体温測らせて下さいね」

おまけにそう言って近付いてくる。胸が!胸が迫ってくる!!

れ、蓮に殺されるーっ!!

「キョ、キョーコちゃん!大丈夫!俺大丈夫だから!熱は自分で測るから!!キョーコちゃんはご飯!そう、ご飯!ご飯作ってくれたんだよね!お腹減ったから早くご飯食べたいな!!」

焦って断るために捲し立てると、キョーコは「わかりました」と言って渋々立ち上がってリビングへ行ってくれた。

「ふう~。た、助かった~」

「なにが?」

「なにがたすかったの?」

「ん?そりゃあ闇の国の蓮さんに……」

俺の両脇で純粋な笑顔でニコニコと訊いてくる子供達。それに素直に答えようとして気付いた。さっきの大人キョーコちゃんが未来のキョーコちゃんだとしたら、この子達はもしかして……。

「パパがどうしたの?なにのくにのパパ?」

「ヤミのくに?ヤミのくにのパパがなにかしたの?」

やっぱり……。やっぱりそうなんだ。

キョーコちゃんと蓮の……。

そうか……。

ぐふ。ぐふふふふ。

込み上げてくる笑いを堪えることが出来ない。

気味が悪い笑みを浮かべる俺を、子供達が不思議そうに見ている。

蓮とキョーコちゃんにそっくりな、可愛らしい子供達。顔はもちろん、性格も本当に可愛い。きっと忙しいながらも二人が上手く育てているんだろう。

二人の夫婦生活かあ……。

想像しただけでにやけてくる。

それを隠すため口を押さえていると、キョーコちゃんがお盆を持って戻ってきた。とてもいい匂いがする。現金なことにグーっとお腹が鳴った。

「社さん、お粥とスープです。食べられそうですか?」

「うん。ありがとう。いただくよ」

起き上がった俺の側までやって来て、キョーコちゃんはそこにちょこんと正座した。お盆を受け取ろうと手を布団から出したのに、何故かお盆を渡してくれない。

「キョーコちゃん……?」

「熱いので気を付けて下さいね」

そう言ってキョーコちゃんは、フーフーとスプーンで掬ったお粥に息を吹き掛け、あーんと口元へそのスプーンを運んでくる。

「あ、ありがとう、キョーコちゃん!自分で!俺、自分で食べられるから!!」

「ママ!わたしがたべさせてあげる!」

「ぼくもぼくも!!」

「ダメよ。熱いから危ないわ。社さんも遠慮なさらないで下さい」

「ほんとに大丈夫だから!一人で食べれるから!!」

だからこれ以上近寄らないでー!!あーん、なんてされて、食べさせて貰ったなんて、蓮に知れたら恐ろしいことになる!ただでさえ大人キョーコちゃんの魅力にドキドキしてるのに。こんなラブラブ新婚さんみたいなことされたら……。

闇の国の蓮さんが降臨してしまう!

「キョーコちゃん!後生だから!お願い!俺を助けると思って!!」

あまりにも必死な顔で頼み込んだからか、キョーコちゃんは仕方ないですね、と諦めて俺にお盆を渡してくれた。

優しい味のお粥と野菜の旨味が閉じ込められたスープ。やっぱりキョーコちゃんの料理は美味しいなあとしみじみ堪能させてもらった。

俺が全部平らげると、キョーコちゃんが嬉しそうに笑って食器を片付けにいってくれた。子供達はというと、リビングで静かに本を読んでいる。

絵本……?じゃないないな。教科書……?でもなさそうだ。でもなんか見覚えがあるんだよな……。

気になって立ち上がり、二人の方へ近寄ろうとして、見事に転んだ。眼鏡をかけていなかったんだ……。

そう思ったところで意識が途切れた。




目が覚めると床の上だった。体が痛くて堪らないし、だるい。けれど何故か熱自体はかなりは下がっている気がする。

夢か……。

蓮とキョーコちゃんの子かあ……。

早くそうなってくれたら、俺の精神的ストレスも少しは解消されるのに。

なんて思いながら起き上がり、だるい体を引き摺って、玄関に置いたままの鞄を取りに行く。中から携帯を取り出し松島主任に休む旨を連絡したら、すでに蓮から伝えられているとのことだった。昨日そんなに辛そうだったかな?

薬を飲んで一寝入りしようと棚に目をやり、気付いた。本来そこにあるべきものがそこにない。そして夢であの子達が読んでいた本は……。

ぎーえーっ!!

なんで?どこに?まさか!

いやいやそんな訳はない。あれは夢だ。夢であるはずなんだ!

しかしいくら探しても部屋からそれが見付かることはなかった。

そして後日、顔を真っ赤にさせたキョーコちゃんからそれを受け取ることになろうとは。俺は予想もしていなかった。

「何故か私の鞄に入っていたんです。ほんとにほんとにすみません!!」

泣きそうな顔でそう言われ、俺も泣きそうだった。

そしてキョーコちゃんにあんな顔をさせてしまった俺を、蓮が闇の国の蓮さんを召喚させて訊問したのはまた別の話。

大事に名前を書いたのが間違いだった。そもそも何故名前を書いたのかすら覚えてないない。

俺が長年愛用した俺のお宝。

何故か子供の手形が付着していた。俺はキョーコちゃんから返してもらったお宝を即処分した。

これであの夢の出来事が未来で起こることはない。

さようなら、俺の青春。俺の宝。

だから蓮!早く告白してくれよーっ!!





<後書き>
白凛様のバースデーリクエストです。かなり難しいお題でした。夢シリーズで社さん編。意外と社さん難しかった。しかも途中でエロ本をからめてくれと。社さんが溜めているのはストレスだけじゃないはず……とかなり問題発言をされたのにも関わらず、社さんがどんなお宝を持っているかは提案してくれなかったので誤魔化してやりました(笑)。上手くエロ本を使えなくてごめんなさい。無理矢理後で付け足した感満載。すみませんでした。

☆「それはホントに夢かしら?尚Ver」
2015年05月26日 (火) | 編集 |
「それはホントに夢かしら?尚Ver」





青天の霹靂という言葉がこれほど的を得ている言葉だとは。

それほど衝撃を受けた。俺はあんぐりと口を大きく開けたまま、その場に立ち竦むことしか出来なかった。

目の前にいる女は間違いなくキョーコであるはずなのに、俺の知っているキョーコとは全く違う。どう見ても同じ人間とは思えない。

これはよく言うパラレルの世界で、俺が普段いる世界とは違う次元の世界に迷い込んでしまっただけだ。そうだ。そうとしか考えられない。

硬直したまま動かない俺の足にちび達が纏わりつく。それを引き剥がすことも出来ず、ただ目の前にいる違う次元のキョーコを見つめることしか出来ない。

「ほんと、どうしたの?なんか今日変よ?」

心配そうな顔をして立ち上がって近付いてくる別物キョーコ。

「熱でもあるの?」

俺の額に手をあてる紛い物キョーコ。

「熱はないみたいね、よかった」

そう言って安心したように笑う偽物キョーコ。

本物のキョーコならこんな風に俺を心配し、こんな風に笑ってくれることなんてない。いや、もうあり得ない。

昔のキョーコなら……。

今更後悔してもしょうがない。

でもこの世界でならやり直せるかもしれない。

そう思ってキョーコの頬に手をかけた。

「ショータロー……?何なの…?」

キスしようと顎を持ち上げたところで足の甲に衝撃を感じた。足元を見れば、纏わりついていたちび達が思いきり俺の足を踏んでいる。

「ショーおじちゃん、めっ!ママにさわっちゃダメ!」

「そうよ!いいつけてやるんだから!」

小さいナイト達が口々に足元で騒ぎ出す。もちろん俺の足を踏んだまま。痛みに悶えていると赤ん坊の泣き声がしてきた。

泣きたいのは俺の方なんだよ!なんでもいいから早く俺を元の世界に戻してくれ!どうでもいいからこのガキどももなんとかしてくれ!

俺を助けろよ、キョーコ!!




それは偶々だった。

テレビ局の廊下を歩いていると“京子様”と書かれた楽屋のプレートを偶然見つけたのだ。

立ち止まってキョロリと辺りを見回し、誰もいないのを確認すると、俺は楽屋の扉に耳を押し当てた。中からは予想通りキョーコの声が聞こえてくる。どうやら携帯で話しているらしいが構うことはない。俺は勢いよく扉を開け、意気揚々と中へ足を踏み入れた。

そこにいるのは…………キョーコ……?キョーコだよ……な?

…………ん?

心なしかいつもより大人びて見える。淡いピンクの落ち着いたデザインのワンピースのせいか大人っぽい。メイクもそれに合わせているのか、大人っぽくもナチュラルで優しい雰囲気だ。それより何よりいつもよりかなり美人に……いやいやこいつは妖怪七変化『魂ススリ』。また化けてやがるだけだ。

けど胸が大きくなってないか……?尻も丸みを帯びて見える。体型まで違うような気がするのは……いや、気のせいだろう。

「ちょっと!ノックぐらいしなさいよ!あいかわらず失礼ね!」

そう言って憎まれ口を叩くのはやっぱりいつものキョーコだ。

「なんだよ!せっかくこの俺様が挨拶に来てやったのにその態度はよ!忙しい中来てやったんだからありがたく思えよな!」

「ほんっとに何様のつもり!?いつまでも子供なんだから。だいたい、授乳中だったらどうするつもりだったのよ、バカショー」

「バカショー言うなっ……て授乳?は?お前何言ってんだ?」

「授乳もわかんないの?あんたそんなにバカだったの?」

呆れた、と言わんばかりのキョーコの顔をじっと見ていると、不意に膝をかくんと折られた。

誰だよ、この俺様に膝かっくんなんてしやがるやつは!と振り向けば誰もいな……くはなかった。足元にはニコニコと笑うちびちびしたやつらが二人いた。どうやら膝かっくんではなく膝に体当たりされたらしい。俺の膝に巻き付いている。

なんだよこのちび達は……。

子役が紛れ込んだのか?親はどうした?

「わーい、ショーおじちゃんだあ!!ショーおじちゃんもきょうここでおしごと?」

「バカね、ひすい。おしごといがいでテレビきょくにくるはずないじゃない。ね、ショーおじさん?」

ニコニコと純粋無垢な瞳で見つめてくる幼児と、小さい癖に小悪魔な雰囲気を覗かせる幼女がにっこりと俺に微笑みかける。

なんだ、こいつら……?

…って、ちょっと待て、ショーおじさん?なんだそれ?誰がおじさんだってーーーっ!!!

「翡翠、瑠璃。お帰り。ちゃんと元の場所に返してこれた?」

呆気にとられた俺を無視して、キョーコがちび達に声をかける。

「うん、だいじょうぶ」

「もちろんよ!」

「ならいいわ。偉い偉い」

にこりとキョーコが微笑むと、二人の子供は嬉しそうに駆け寄っていった。

「だ、誰だよ、そいつら……?」

「は?あんた何言ってんの?瑠璃と翡翠に決まってるじゃない。この前あったばかりでしょ?」

ボケたの?と失礼なことをほざきやがったキョーコは、二人の子供の頭を撫でながら、そいつらの体を反転させる。

「ほら、瑠璃、翡翠。ちゃんとショーおじさんに挨拶しなさい」

「おはようございます、ショーおじさん」

「おはようごじゃいましゅ、ショーおじちゃん」

ペコリと頭を下げる二人に、何がなんだかわからないまま俺もとりあえず挨拶を返した。が、益々訳がわからない。

この前あった?何言ってやがんだ、こいつ……。

しかしやたら親しげだな……このちび達。キョーコの知り合いか?

「ボケっと突っ立ってないで用事があるなら早く言ってくれない?これから撮影なんだから」

「ぼくたちとあそびにきてくれたんだよ、ね、ショーおじちゃん!」

翡翠と呼ばれた幼児がニコニコと純真な笑顔で俺に同意を求める。まるで俺にべったりだった昔のキョーコのような表情で。だけど顔の造りはどれもキョーコとは似ていない。それなのにどこかキョーコを彷彿とさせるのは、そのあどけない表情のせいだろうか。

「そんなわけないでしょ、ひすい。ねえ、ショーおじさん、ママのおへやになにかようじ?」

今度は瑠璃と呼ばれた幼女が俺を挑発的に見つめてくる。まるでキョーコがやった“ナツ”みたいだ。肩までの黒髪を二つのリボンで結んだ姿はキョーコの小さい頃にそっくりだが、まかり間違ってもあの頃のキョーコが浮かべない表情をする。顔の造りはそっくりなのに……。

しかも今ママとか言わなかったか?

なぜだが胸がざわざわする。嫌な予感が確信へと変わるのにそう時間はかからなかった。

「ねえ、ママ?きょうショーおじちゃんへんだね。どうしたのかなあ?」

「ママよりショーおじさんにきいたらいいじゃない。ショーおじさん、なんかへんなモノでもたべたの?」

ママ?やっぱりママ?って言ったよな?

誰が?誰の?

硬直したままの俺にちび達が纏わりつき、キョーコが心配そうに見つめる。近付いてきたキョーコの頬に触れ、顎を持ち上げてキスしようとしたところでちび達の妨害を受けた。足を踏まれると言う実害と、赤ん坊による泣き声と言う騒音によって。

キョーコで隠れていて見えなかったが、キョーコの後ろにはベビーカーが置いてあり、そこには赤ん坊が寝かされていたようだ。堰を切ったように激しく泣く赤ん坊を抱き上げ、キョーコは慣れた様子であやし始めた。俺が見たことのない、母親の顔をして。

本当は聞きたくないが、可能性を信じ、恐る恐るキョーコに尋ねた。

「キョーコ……こいつらまさかお前の子な訳ないよな……」

「はあ?今更何言ってるの?」

当たり前でしょ、違うに決まってるじゃない、と言う言葉が続くことを期待していた。けれど……。

「頭でも打って記憶飛んだ?私の子に決まってるでしょ?あんた、お祝いくれたの覚えてないの?翡翠の時なんて産まれたその日に来て号泣したじゃない」

「わたし、おぼえてるわ。ショーおじさんすっごくないてて、ひすいのふくびしょびしょにしてた。あとできたパパがものすっごくいやなかおしてたよね!」

くすくすと瑠璃が笑う。

パパ……と言う言葉にズキズキと胸が痛む。

「琥珀が産まれた時だってやけに早かったわよね……」

「パパおこってたよね!またさきにだっこされたって!」

「うん!すっごくおこってた。パパはロケだったからなかなかこれなかったのにって。でもあのあと、びょういんでママにチューチューしすぎて、ママにおへやおいだされちゃったけどね」

「あれはパパが悪いのよ。いつまでも子供みたいに嫉妬するから」

「しかたないよ、パパはママがだいすきなんだから」

「そうよ。パパはママがいないとダメなんだから、ちゃんとチューしてあげないと……」

茫然と立ち竦んだままの俺を放置して、三人は話を続ける。

パパ?パパって一体誰だ?誰がこいつらの父親なんだ?誰がキョーコを孕ませやがったんだ?

その答えはすぐに出た。

「やあ、不破くん。また子守りにでも着てくれたのかな?」

俺の背後からキラキラとした鬱陶しい光と爽やかな声が降ってきた。爽やか……そう爽やかを装った不機嫌な声だ。聞き覚えのあるこの声は間違いない。振り返るまでもわかる。

ヤツだ。

ゆったりとした動作で俺の横を通り過ぎ、キョーコの前に立つと、自然な動作でキョーコを引き寄せ額にチュッと口付けた。ヤツが現れたとたん、俺の足元にいたちび達が嬉しそうにヤツに引っ付きにいった。

「パパ!おしごとどうしたの?なんでママのおへやにきたの?」

「パパ、さみしくてきちゃったの?」

騒ぎながら二人が飛び付くと、ヤツはそれを難なく受け止め、一人を肩車、一人を片腕に抱えた。子供相手にもキラキラしたオーラを垂れ流し続けている。

「さっきママと電話してたんだけどね。なんか途中で切れちゃったから、心配でいてもたってもいられなくて。ちょうど休憩中だったから抜けてきちゃったんだよ」

ニコニコと笑顔を浮かべ答えたヤツの言葉に、キョーコは慌てて携帯を見る。そしてしまった、という表情を浮かべた。

どうやら俺が楽屋に入った時に慌てたのか、間違えて電源ボタンを長押ししてしまったらしい。

「ところでキョーコ、大丈夫?なんかさっき琥珀の泣き声が聞こえたけど……」

「大丈夫よ。もう泣き止んだから」

そういえば、さっきあれほど激しく泣いていた赤ん坊が、いつの間にか泣き止んでキョーコの腕の中で眠っている。キョーコは愛おしそうにそれを見つめ、ヤツに見せた。

「ほんとだ。よく寝てる」

ヤツはキョーコから赤ん坊を受け取り、額にキスをしてベビーカーに戻した。そして振り返り、俺に向かってにこりと笑う。

「さて、不破くん?どうして君がここにいるのかな?子守りは嬉しいけど今日は必要ないんだけど」

キラキラした笑顔で俺を訊問してきた。この強烈な光には嫌ってほど覚えがある。正直もう逃げたい。なのに俺の足は何故か動かなかった。

「きいて、パパ!」

「どうしたの、瑠璃?」

「あのね!さっきショーおじさん、ママにチューしようとしたの!!」

「ちょっ、瑠璃!違うわよ!!ね?そうよね、ショータロー!!」

真っ青になったキョーコが慌てて否定し、俺の同意を必死な顔で求めてきたが、それが余計ヤツの機嫌を損ねることになった。

「へえぇ~。そうなんだあ。それで?まさかされてないよね?」

「うん!ちゃんとわたしたちがとめたから!」

「そうだよ!ぼくたちショーおじちゃんがママのおかおにさわったから、ダメってしたよ」

偉いでしょ、と得意気な顔でヤツに報告するちび達に、俺は殺意を覚えた。

案の定、ヤツの笑みは深くなり、漂う冷気が更に冷たさを増した。キョーコも心なしか怯えている。

「不破くん?まだキョーコのこと諦めてないの?」

「そっ、そんな訳ねえだろ!!だいたいこの俺がキョーコにキスなんてしようとする訳ねえよ!!」

「……だよね。安心した。あ、それと子守りは暫くいらないからね。琥珀はまだ小さいし、また四人目が欲しくなったら頼むよ。その時は三日間くらい頼もうかな?」

クスクスと黒い笑顔を浮かべ、何やら不穏な言葉を漏らしたヤツは、悪魔にしか見えなかった。いや、そんな可愛い物じゃない。あれは魔王だ。地獄を統べる大魔王。


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